2025年2月のエッセイ
ターニングポイント
岡 温子
ヨガを始めて2か月、ヨガの第一人者の講演会へ出掛けた。
その第一声は「あなたは人の物を盗んだ事がありますか」
当然、皆、首を横に振る。
次に「では待ち合わせ時刻に遅れた事はありますか」
ザワザワする。
「それは人の時間を盗んだ事になります」とキッパリ。
この会で奇しくも隣り合わせた方と意気投合し、会後近くの蕎麦の名店へ直行した。
味は良く覚えていないが、話は尽きず時間を惜しんで語り合った。
まるで恋に落ちたように。60代のおばさん2人が。
それ以来月に1度は会うようになった。
忘れ難い出来事を列挙してみる。
足腰鍛錬のため如意ヶ嶽(大文字山)へ。
風の音、樹々のざわめき、鳥達のおしゃべりを聞きながら山頂へ。
森林浴の中の座禅は体中の気が入れ替わり気分壮快だった。
課外授業で清水寺の十一面観世音菩薩の温前で瞑想した折は、観音様の体内にしっかりと抱かれ温かいものを感じた。
鞍馬寺の金堂前の「金剛床」では強烈だった。
靴を脱ぎ中央で手を合わすと、足は強力な磁力で固定され、上半身は宇宙のエネルギーに無抵抗のまま引き上げられた。
限界を感じた時、足を外し事なきを得たが、パワースポットの威力は本物だった。
その後、若い人達と体験したが何事も起こらなかった。
京都の有名寺院で仰臥禅(大の字になっての禅)を経験した。少々ややこしいが、大の字のままの私が空中にすっと浮き上がり、下の私を見詰める。
下の私も上の私を見詰める。
暫くして、上の私と下の私は中間あたりで一つになり静かに畳の上へ。
幽体離脱だ。「ザ・たっち」のそれとは違っていた。
彼女といると心地がいい。空気を美味しいと感じる。
見えない世界を感じ、摩訶不思議な体験を通して、私は自分の変化に気付いた。
私は癒され、とても素直になっていた。
後で聞いた話だが、彼女の職業はカウンセラーだった。
コロナ禍以後、彼女と会えていあないが、コロナが私の日常を変えた。
心と体の健康を第一に丁寧に生活する事にした。
具体的には、起床後は呼吸法、屈伸など30分。夕方は1時間のウォーキング。高野川から糺の森、下鴨神社がコースだ。
高野川は年中、青鷺・白鷺が良く馴染み、運が良ければ翡翠にも会える。
糺の森は、白く長い参道の美しい樹木が奥に朱の鳥居を抱いている。
下鴨神社を詣でた後は、3年前に境内に父母の名で植樹した紅葉の前で「ありがとう」と言って折り返す。真冬でもじっとり汗ばむ。
振り返ると、いいタイミングでいい御縁を戴き、私は本当に幸運だったと思う。
記憶が蘇り逢いたくなって来た。彼女に逢って「ありがとう」と言おう。
(以上)
◆「ターニングポイント」:岡 温子(おか・はるこ)◆