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5月9日
会員の著作に、宇多喜代子さんの句集『NHK俳句 厨に暮らす 語り継ぎたい台所の季語』を掲載しました。
5月1日
青年部のページを更新しました。
5月1日
今月のエッセイに、池田奈加さんの「わたしの体、わたしの血」を掲載しました。

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2022年5月のエッセイ

わたしの体、わたしの血

池田奈加

 『僕の体を通った、僕の血が通った表現を突き詰めたい』

 応援しているアイドルが、とある雑誌でそう語った。折に触れ、彼の言葉にはハッとさせられるのだが、そのインタビューを読んだときも彼が選んだ言葉を噛み締めた。そうして自身に問いかける。
 わたしは、「わたしの体を通った、わたしの血が通った表現」というものを立ち止まって考えたことがあっただろうか、と。

 「血が通った」という言葉からは生命力や人間味という意味を受け取ることができる。フィクションであってもまるで実在しているかのような演技、迸る情熱を余すことなくぶつけるパフォーマンス。アイドルである彼の表現はひとつではない。どんな仕事であっても「血の通った表現」を貫く姿勢は、彼の誠実さを物語っている。

 わたしが俳句をはじめたきっかけは、現実逃避からだった。日々に息苦しさを感じ、それでもなにか形に残るものが作りたくてはじめた。今ではすっかり「作るのが当たり前」になってしまって、逃避どころか現実そのものになっている。わたしにとって俳句は、アイドルを応援することと同じだけ日々に欠かせないものになった。

 そんな自身に置き換えて考えると、やはりなかなか難しい。わたしの句は、フィクションが多い。ありもしないことばかり詠んでいる。これは現実逃避からではなくただの好みなのでここでは語らないが、ありもしない世界をあたかも存在するかのように描きたいという気持ちがあるからこそ、演劇やライブパフォーマンスというある種の「非現実」に身を置く彼の言葉が心に響いたのかもしれない。

 自分の経験や感性、感情や思考。そういうフィルターを通したときに生まれる一句。言葉の選び方だけでなく、視界の切り取り方、語感の捉え方まで幅広く作用するのが「わたしの体」で、その答えが「わたしの血」なのかもしれない。彼の言葉の意味とは異なるかもしれないが、一人の表現者(の端くれ)としてもう少し自分を信じてみようと励まされた。

 このエッセイを依頼されたとき、「わたしでよければぜひ」と意気込んだものの、安請け合いだっただろうかと反省している。なにしろエッセイを書くのははじめてで、慌てて「エッセイ 書き方」で検索を掛けたほどだ。読めども読めどもさっぱりわからず、当然のように時間だけが過ぎていった。さすがにまずいと思いつつも、楽しみにしていた雑誌を手に取り読んでいると、あの言葉があった。これは書くしかないと思った。エッセイの話がなければ、彼の言葉をここまで考えることもなかったかもしれない。ひとりごとのように呟いて終わっていたかもしれない。

 不思議な交差を経てエッセイを書いていることが、「わたしの体を通った、わたしの血が通った表現」の第一歩なのかもしれない。

(以上)

◆「わたしの体、わたしの血」:池田奈加(いけだ・なか)◆

  

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2022年

タイトル 作 者
4月 薪ストーブサウナの歓び 岡村知昭
3月 安満遺跡公園 星野早苗
2月 あの頃 赤窄 結
1月 コロナ禍の中で 高橋将夫

◆2021年

タイトル 作 者
12月 ふる里の「男爵いも」 宮武孝幸
11月 季語の周辺 津野洋子
10月 澪とワタシ とよだ澪
9月 峰定寺と日本一の花脊の杉 仲井タミ江
8月 だまし絵としての「第二芸術」 鈴木ひさし
7月 僕と俳句 西田唯士
6月 今後 横井来季
5月 北国の春 音羽和俊
4月 屋根と花 小西雅子
3月 俳句とコミュニケーションについて 妹尾 健
2月 形見の餅 上森敦代
1月 新型コロナ時代の句会 岡田耕治

◆2020年

タイトル 作 者
12月 見るということ 石井 冴
11月 雪国と酒粕 村田あを衣
10月 窯神 山田 和
9月 夢ものがたり 三木星童
8月 縁―正岡家の人々 瀬川照子
7月 鶏の話 千坂希妙
6月 再会 江島照美
5月 八ヶ岳縦走記 植田かつじ
4月 水仙花 中村純代
3月 四郷の串柿 満田三椒
2月 学生結婚と情熱と言葉 衛藤夏子
1月 ひととせの蝶 鈴鹿呂仁

◆2019年

タイトル 作 者
12月 言葉に出会う 榎本祐子
11月 いまを生きる 山﨑 篤
10月 雅号の薦め 吉田星子
9月 「変容」について 金山桜子
8月 鯰と鼬 髙木泰夫
7月 レオン 横田明美
6月 茨木市、一つの俳句史 藤井なお子
5月 俳句に気を許す 塩見恵介
4月 あるコンサートで思ったこと 吉田成子
3月 初学のころ 久保純夫
2月 便船塚 おおさわ
ほてる
1月 観光公害 宇多喜代子

◆2018年

タイトル 作 者
12月 新とか旧とか 小林かんな
11月 三種の神器 出口 善子
10月 「卒業」の話 野住 朋可
9月 ヒロシマの首飾り 花谷  清
8月 朱夏のネアンデルタール人 柳川  晋
7月 一人がため 曾根  毅
6月 兜太氏と秩父の思い出 桂  凜火
5月 選のチューニング 小池 康生
4月 高野素十のコントラスト視点 橋本小たか
3月 式年開帳 蔵田ひろし
2月 わたしの俳句観 平田 繭子
1月 炉話のこと 宇多喜代子

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