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7月1日
今月のエッセイに、森谷一成さんの「久保純夫の代表句」を掲載しました。
6月5日
青年部のページに関西ゼロ句会(2025年7月27日)のお知らせを掲載しました。

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2025年7月のエッセイ

久保純夫の代表句

森谷一成

    

    水際に兵器性器の夥し      久保純夫

 俗に火砲は男根の象徴とされ、その両方が水際に蝟集して合戦の時を待つ。
 軍に引っぱられた男性集団の悲惨なる滑稽、あるいは滑稽なる悲惨を、兵士の目線で詠んだ純夫の代表句である。
 ノルマンディーや硫黄島など歴史上の決戦ばかりではない。
 たとえば、現在の日本を見ても、要塞化する南西諸島に配置される自衛隊の基地、あるいは中東やアフリカの駐屯地や海上の艦船においても、兵器と若き男性器がきゅうくつに入り乱れているのではないか。

 戦時下、対馬要塞へ召集された新兵の教育期間を描いた大西巨人の全体小説「神聖喜劇」に以下のような件りがある。

《湯気の中で、男根の密集が、てんでに勝手な方向を向いてひしめいた。(中略)「私は女陰なきを憂うる。男根なきを憂えない。軍隊は男根所有者の多きに堪えない。」とでも表現せられるべき感慨を、ここで私は、強いられている。》(第一部 絶海の章))

 これは軍隊生活のまぎれもない実況であろう。ちなみにこの小説の結末は、その「女陰なきを憂うる」に因果する。

 ところで、掲句が表現するのは近現代戦の表象であろうか。
 否、「兵器」を槍状の武器とみれば、自国史においても、川中島、元寇、防人、白村江と遡ることができる。
 世界史では、はるか紀元前のペルシャ戦争やペロポネソス戦争、また後漢末の赤壁の戦いに思い至る。
 すなわち国家=常備軍の成立とともにあり、領土、資源、奴隷をめぐる奪い合い、征服と隷従を賭けた最前線における兵士たちの愁嘆場を、邪悪な人間集団の文字どおりの局部を、掲句は醒めた諧謔をもってえぐってみせた。
 それはまた戦場における性暴力や慰安婦の問題へとつらなる。

 俳句で、ここまでの深淵(有難くはないが)を書くことができるのかと唸ってしまう。
 また無季俳句の力を見せつけた意味でも傑作であろう。
 また作者の、エロスをテーマに書き続けてきたエネルギーが、抑圧された男根を憐れみ、抑圧する何者かに怒りを静かにぶつけるかたちで掲句に結晶した、という読み方もできる。

(以上)

◆「久保純夫の代表句」:森谷一成(もりたに・いっせい)◆

  

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2025年

タイトル 作 者
6月 何のための草刈り? 岡田耕治
4月 お菓子 小枝恵美子
3月 邦題のつけ方、季語の選び方 衛藤夏子
2月 ターニングポイント 岡 温子
1月 さまざまな私へ 久保純夫

◆2024年

タイトル 作 者
12月 実家の石灯籠 田中公子
11月 「雨」と「漣」 金山桜子
10月 酒と俳縁 西谷剛周
9月 筋肉は騙さない 村上春美
8月 出合った句、出逢った人 三田陽子
7月 春の到来 妹尾 健
6月 らんまん 西村耕心
5月 俳句と自然体験 大西可織
4月 「夏への扉」 新井博子
3月 藍の晩年 若森京子
2月 俳とは文芸のピアニシモ 穂積一平
1月 運に恵まれて 志村宣子

◆2023年

タイトル 作 者
12月 俳句小屋「げんげ」 西谷剛周
11月 晩年を楽しむ 神田和子
10月 兎―季語の背景にあるもの 外山安龍
9月 よろこびの子 太田酔子
8月 詩になる言葉の法則性 斎藤よひら
7月 象の位階(従四位) 内田 茂
6月 あっ、ご近所にコウノトリ 石井清吾
5月 古文書を学んで 片岡宏子
4月 俳句放浪記 中村聰一
3月 平成中村座を追いかけて こにし桃
2月 スマホの世なれど蠅には蠅叩き 塩野正春
1月 ハリコフの日曜日 花谷 清

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