関西現代俳句協会

会員の著作(2021年事務局受贈分)

  句集

『異地』

杉浦圭祐

現代俳句協会 2021年1月15日発行



「熊野」といわれている紀伊半島のエリアに、ここが熊野、これが熊野、という 特定される場やものはない。あの山か、あの滝か、あの社か、あの辻か、あの気 配か。記紀伝承の昔から、蟻の熊野詣の昔から、人々が育んできた熊野とはそん な概念の熊野である。長く通った「熊野大学」での放課後的ある時、「概念の熊 野」について中上健次さんと話し込んだことがあった。今、杉浦圭祐さんが『異 地』と名付けた句集を前に、あの日のことを思い出している。

宇多喜代子・・・・・「跋 二月六日の神火」より


 十八歳まで過ごした和歌山県新宮市へ二十二歳の時に戻ったのは、地元の先輩で作家の中上健次さん主宰の「熊野大学」に関わりたいと思ったことが理由のひとつだった。熊野大学とは、中上さんが中心となって一九九〇(平成二)年に発足した「建物もなく、入学試験もなく、卒業は死ぬ時」を合言葉に、熊野とは何かを問い続ける自主公開講座である。
 一九九一年に初めて熊野大学の手伝いをするのだが、翌年八月十二日に中上さんは四十六歳で亡くなってしまう。その後、なぜだか私は急に熊野大学にあるという「俳句部」に誘われることが多くなった。

杉浦圭祐・・・・・「あとがき」より


○帯「自選十句」より

 七〇二頁に蜘蛛の子の死骸

 大滝を拝むところに火の匂い

 馬追と轡虫との体重差

 憧れの蛇に覚えてもらいけり

 どの木よりつくつくぼうし始まるか

 神倉の神火ざわめくひとところ

 綿虫よ地下街に来てどうするか

 ふぐの身に透けて伊万里の鳥や花

 家のある者は家へと鰯雲

 誰の子と思いて我を見る鯨


○発行所

 現代俳句協会

 〒101-0021
 東京都千代田区外神田6-5-4 偕楽ビル7階

 (定価 1,500円+税)

◆句集『異地』: 杉浦圭祐(すぎうら・けいすけ)◆

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