関西現代俳句協会

会員の著作(2016年事務局受贈分)

  遺句集

『林の唄』

豊田都峰

東京四季出版 2016年7月1日発行



 『林の唄』は第十句集である。林とは、生やすが語源と聞く。
 私が生やした作品、ということでの命名である。

――遺稿より



俳人都峰 絶唱の 最終章完結

 郭公のさそふ林をふもととす

 里山をこよなく愛した俳人都峰の
 第十句集『林の唄』はこの句で始まる。
 郭公に誘われるままに、都峰作品は
 水を得た魚のように里山を拾い集めていく。
 平隠な最終章となるはずのこの句集は、
 本人の意識の中の底方を拾うことになる。
 結句に、人間都峰のありのままの姿を置く。

 ががんぼよ向かう岸までおれもゆく

鈴鹿呂仁・・・・・「帯文」より



 父は生前、と言いましでも、一昨年辺りからだったとは思いますが、また句集を出したいと申しておりました。今まで、『野の唄』に始まり、第九句集の『水の唄』まで出版しております。この句集を三部作の集大成と考えていたのかもしれませんが、何故か「次に出す句集が最後になるだろう」などと言っていたことが今も不思議に思いだされます。その言葉を聞いた時は、年齢的にも最後だと思っているのかな、と軽い気持ちでおりましたが、本当に最後になってしまったことは残念でなりません。

豊田 恵・・・・・「あとがき」より



○帯「『林の唄』抄出十五句 鈴鹿呂仁」より

 郭公のさそふ林をふもととす

 わが影へさそへば音とくる木の葉

 星ひとつ林に咲いて冬はじめ

 丸木橋のむかうひぐれの二輪草

 山吹の咲き川すぢとなりにけり

 春浅き林は風の棲むところ

 林出て里へひとすぢ日永なる

 風を聞く穂草のあたり村ざかひ

 若葉青葉プロムナードは水に沿ふ

 何ひとつ疑ひのなき日の枯木

 風の音遠ざけてより山眠る

 木もれ日は遠かなかなのさそひ径

 野にひろふ露のしるべのふたつみつ

 春さぐる林の径はすぐ消えて

 ががんぼよ向かう岸までおれもゆく


○発行所

 東京四季出版

 〒189-0013
 東京都東村山市栄町2-22-28

 電話 042-399-2180

 (定価 2,800円+税)

◆遺句集『林の唄』: 豊田都峰(とよだ・とほう)◆

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