関西現代俳句協会

会員の著作(2015年事務局受贈分)

  句集

『笑顔しか浮かんでこない』

圖子まり絵

E-prost 2015年6月15発行



  笑顔しか浮かんでこない流灯会

覚束ないままの形で波間漂う精霊船の灯に、
忘れられないその笑顔の一つ一つが思い出される。
死者、生者を問わず、行き過ぎて来た時間のなかで
出会った人の面影はすべて「笑顔」を思える。

鈴木 明・・・・・「序」より



 まり絵俳句は、形式に準じた的確な表現と、詩情性が加味された世界観を持ち合わせていたので、句会に定着することは時間を要しなかった。また連歌の歌人でもあったので知識は豊富に備わっていた。連歌には本歌・本説取りの技巧がある。それはまり絵俳句の中にもあって、表現の手段は多岐にわたりバリエーションは豊富である。現実を写し取ることはスケッチ、それを心象化して表現することは、まり絵俳句はすでに出来上がっていた。というより、芸術的感覚を若い時に習得した経緯がある。またご主人が日本画家で、その環境に日々接していることもあって表現とは、作品とは、を常に考える環境があった。

石田杜人・・・・・「跋」より



 地震台風、火山の噴火、大雨による土砂崩れなど災害続きの日本列島。日本ばかりではない地球規模での天候異変が報じられ、人間の無力さ自身の微小さを思い知らされる昨今です。
 そんな中でも瓦礁の中に水仙が咲き、石垣のわずかなすき間に董が芽生る。アスファルトの割れ目に咲いたタンポポさえ短い春を謡歌している。日々の小さな感動を十七文字の短詩形に綴って自らの慰めとして参りました。第一句集「彼方より」を上梓して十年。まだまだ未熟で恥ずかしいのですが、それからの十年を第二句集「笑顔しか浮かんでこない」に纏めてみました。

圖子まり絵・・・・・「あとがき」より


○帯「自選十五句」より

 罫線をひたひた春の潮満ち来

 福島や春泥カラスの足にあり

 老鶯の直訴開かずの勅使門

 つちふるや茶封筒にて返事くる

 トロンボーン金波銀波の光琳忌

 閃光の夏と咬み合う連結器

 寒卵ノックしてみる立ててみる

 蜘蛛の囲にかかる落日羅生門

 秋灯し妣が石臼碾きにくる

 一方的な愛一面の鰯雲

 臆病が秋を深めてしまいけり

 カンナ紅し始発電車が濡れてくる

 櫛を捨て簪を捨て蛇穴に

 二ン月のスフィンクスを起たしめよ

 あいまいな笑い自画像ひこばえる


○発行

 E-prost

◆句集『笑顔しか浮かんでこない』: 圖子まり絵(づし・まりえ)◆

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