関西現代俳句協会

会員の著作(2014年事務局受贈分)

  句集

『木の春』

吉本宣子

文學の森 2014年2月4日発行



  雨乞ひのぴしぴし折れる炎かな

人間が火を用い始めた頃の
原初の火をも感じさせてくれる「炎」である。
作者の心の中の炎でもあろう。
この詩性こそ作者の個性と私には思われる。
この炎を根っこに吉本宣子俳句の進展を、と願う。

中村和弘・・・・・「帯文」より


  躁の蠅鬱の蠅夏旺んなり

 私は、東南アジアあたりの市場の一隅を想像するのだが、人間も蠅も同空間に、それぞれの世界を保ち生の営みを続けている、エネルギーに満ちた生き物同士としての有り様を思うのだ。吉本さんの俳句の根底には、そうした命を、想像力をもって見つめる視座が備わっている。

高野ムツオ・・・・・栞文「その言葉の念力と祈り」より


 句集を出すことなどは全く考えていなかった。四、五年前に中村和弘主宰が「句集を出したらどうか……」と声をかけて下さったのがきっかけであった。
 その頃、病で娘と主人を相次いで亡くし、悲しみのどん底にいた。あれから幾らか時間も経ち、ようやく自分の人生をどのように全うするかを考えられるようになった。
 俳句という利得とも栄達とも関りのないものに寝食を忘れてのめりこむ。その心こそが大事である。

吉本宣子・・・・・「あとがき」より


○帯より高野ムツオ抄出10句

 雪月夜裏返しては父洗ふ

 橋の裏映してゐたり十二月

 新緑のしづくとなりし赤子かな

 朧より朧へうつし世の列車

 薫風は千手観音菩薩かな

 無辺より藻玉の蔓や敗戦忌

 菊あまたあまたの神に軍神

 白蓮の白より出でし塵ならむ

 わが頭蓋小楢の風のみかよふらし

 わが胸の礁に育つ卯浪かな


○発行所

 文學の森

 〒169-0075
 東京都新宿区高田馬場2-1-2 田島ビル8階

 電話 03-5292-9188

 (定価 2,095円+税)

◆句集『木の春』(きのはる): 吉本宣子(よしもと・のぶこ)◆

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