関西現代俳句協会

会員の著作(2013年事務局受贈分)

  句集

『夢谷』

柿本多映

東京四季出版 2013年8月23日発行



 柿本さんは五十六年秋、

  真夏日の鳥は骨まで見せて飛ぶ

 の句を何の気なしに、現代俳句協会の大会に出句して秀逸に選ばれた。大会へは全くはじめての投句であった。また「俳句研究」の五十句競作に応募して佳作になった。出す作品がたいていそのように次々認められることは柿本さんの優れた資質をよく現わしていると思う。

  枯芦の沈む沈む喚びをり
  蝶食ふベ二度童子ふたたびわらしとなりにけり
  国原の鬼と並びてかき氷
  出入口照らされてゐる桜かな

 最近のこれらの句のなかには、現代俳句協会三十五周年の大会で入賞した句、「草苑」大会で特選になった句などふくまれているが、その一句一句が、柿本さんの心の奥深く、長い間しまわれていたものである。私は柿本さんの心には宝庫のようにまだまだ多くの句がそれらの句が、これからも次々ととり出される眠っていると思う。それらの句が、これからも次々ととり出されることであろう。

桂 信子・・・・・「序」より


 柿本多映を知ったのは、かなり前のような気もするので、念のために調べてみると、その作品が「白燕」に現われたのは昭和五十六年の冬だから、まだ二年あまりにしかなっていないのである。しかし、印象は当初から強烈だった。暑さの続く垂水の句会に、同じ大津在住の村木佐紀夫が連れて来て紹介した。きびきびと明るくて、なんとなく小鴨が連想されたのは、小柄で愛くるしいところがあるばかりでなく、湖南から飛来したということが、私の感興をそそったからであろう。

橋 閒石・・・・・「跋」より


 第一句集『夢谷』を政田岑生さんの書肆季節社から出版して、いつの間にか三十年が過ぎようとしている。当時五十歳半ばだった私も、いまや後期高齢者などと味も素気もない名稱の枠内に組み込まれている。

 (中略)

 ところで、幼時、密教の寺という或る意味に於て閉鎖された環境に置かれた私にとって、唯一広い境内で出会う小動物や昆虫、或いは不思議な樹や花は恰好の遊び相手だった。勿論蛇や蜥蜴もお友達の範疇にあったのだ。その頃の私は無意識のうちに、自分が兄達と異なる立場にあることを感じとっていたのかも知れない。この自然との戯れはその心の隙を埋める必然的な行為でもあったのだろう。『夢谷』を手にするたびにそのようなことを思い、そして、このことが只今の私の俳句の原点として、体の底に沈んでいることに気付かされる。それは終生、私を活性化させるエネルギーとなることだろう。

柿本多映・・・・・「あとがき II」より


○発行所

 東京四季出版

 〒189-0013
 東京都東村山市栄町2-22-28

 電話 042-399-2180

 (定価 1,142円+税)

◆句集『夢谷』: 柿本多映(かきもと・たえ)◆

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