関西現代俳句協会

■2022年1月 青年部連載エッセイ

生き物の生態と季語(6)
カラ類

クズウジュンイチ


 シジュウカラは緑の多い都市公園などでも普通に見ることができる鳥である。地味ながらシックな鳥でかわいらしい。このシジュウカラを筆頭に、シジュウカラ科に分類される鳥を総称してカラ類と呼ぶことがある。日本では5種、うちハシブトガラは北海道にのみ生息しているため、本州以南ではシジュウカラ・ヤマガラ・ヒガラ・コガラの4種を指す。
 これらの鳥は習性や生息環境が似ていて、さらに見た目にも似ているので慣れるまでは見分けるのに苦労するかもしれない。シジュウカラを基準に考えてみる。

 シジュウカラ。黒い頭に灰色の胴体、胸の中心に黒い縦線がある。
 ヤマガラ。これは間違うことはなく、唯一体色が茶系。
 ヒガラ。シジュウカラより一回り小さい。頭頂部に冠羽があってモヒカン状。
 コガラ。胸に黒い部分がない。全体に白っぽく見える。名前と異なり、それほど小さくない。

 シジュウカラ科を含む多くの鳥は暖かくなると繁殖に向けての行動を開始する。これはヒナを育てる際の食料の調達が関係している。脆弱なヒナの時代をできるだけ早くクリアするためには植物質のものよりも栄養価が高い動物質のもの、昆虫などを大量に与える必要がある。となると、植物が芽吹くタイミングで大量に発生してくる鱗翅目(蝶・蛾)の幼虫などを狙っての繁殖戦略をとることになる。

 シジュウカラ科(以下カラ類)は繁殖用の巣を作るとき、自然状態であれば樹洞を利用することが多い。適度な深さの穴に動物の体毛やミズゴケなどを運び込み、産座とする。ただしシジュウカラにおいては人工物の穴状のものを利用することもままあり、郵便受けやガードレールの裏などで営巣する例、庭先に放置されていたヤカンに営巣したのも見たことがある。こんな調子なので、人間が用意した巣箱もよく利用する。

 季語としてもよく詠まれる巣箱だが、主なターゲットはカラ類であり、そのため穴の直径が2.8センチを基準としていることは知られていない。これはスズメが入れずにカラ類がギリギリ入れるように考えられた大きさになっているのである。
 巣箱にもヘビが入ったりと安全ではないが、親鳥の必死の抱卵により孵化までおよそ二週間、そこから三週間で自力で外に出られるところまで成長する。巣立ったとしてもしばらくは自力でエサをとることもできず、親鳥が給餌する。

 ようやく一人前になるのは夏場以降という感じだろうか。自力でエサをとれるようになり、親鳥と別れ、自立した生活を始めるのだが、初秋、若い鳥たちは群れ始める。この時、シジュウカラだけが群れるのではない。同じような小鳥が一緒に群れるのである。これをバードウオッチャーは「混群」と呼んでいる。
 混群にはカラ類はほぼ参加、エナガ、メジロ、コゲラも主要メンバーといえる。やや山間部寄りのエリアであれば、キクイタダキやゴジュウカラなども参加する。ちなみにゴジュウカラは「~カラ」という名ながらカラ類には含まれない。あくまでも一属一種のゴジュウカラ科の鳥である。

 この群は前述のとおり初秋の9月ころより結成され、翌年の初春まで維持される。さらに言えば降雪の多い山間部などから低山地~平地に降りてくる個体も多い。そのため、冬場には都市公園などで見る機会が増える。しかし移動してくるグループにはコガラだけが含まれていないことが多い。コガラは雪山に残留するのである。その理由ははっきりしていて、くちばしが強いから、である。
 ほかのカラ類に比べてコガラのくちばしは太短くて力強い。そのためエサが不足する雪山などの環境において樹皮の下などで越冬する小動物をほじくりだすことができる。この特殊技能ゆえに雪山に残留して暮らせるのである。

 他のカラ類は似たような環境に暮らす小鳥たちも巻き込んで混群となって冬を越そうとする。このとき、複数の種類がいる場合であっても群のリーダーにはシジュウカラが就任する。シジュウカラの後ろを小鳥たちがついていくのである。

 他種も一緒になって群れるのはメリットがあるからだと考えられている。それは、まず第一に危険回避である。最大の天敵はタカ類で、反撃の手段を持たない小鳥は逃げるしかない。そのためには敵の存在をいち早く知る必要があるが、このとき数多くの眼があれば有利である。一羽が気付くことができれば群れ全体が助かる相互扶助が成り立っているのである。

 もう一つのメリットは食料の入手である。夏場には昆虫を中心とする動物食だが冬になるにしたがって草や木の実などの植物食中心にシフトしていく。草木の実はまんべんなくあるわけではなく偏在しているため、エサがある場所を探索するにも多くの眼があれば有利である。しかも微妙に鳥たちの食性が異なっているので、競合も起こりにくい。カラ類が実の種子を食べているときに、メジロは熟果の果肉をつついていたり、コゲラは枯れ枝から昆虫を引っ張り出したりしている。

 この時期、雑木林に行けば高い確率でこの混群が出会えるだろう。もし遭遇したならば、このような習性や食性の違いを意識して見てみると面白い。

 

生き物の生態と季語(6)カラ類

クズウジュンイチ
1969年7月21日生。群馬県高崎市出身在住。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。「奎」「いつき組」。日本野鳥の会会員、群馬県鳥獣保護管理員。晴れていればほぼフィールドに出ている。

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