俳句×博物館めぐり(3)
公益財団法人 柿衞文庫
学芸員 加藤有果子
柿衞文庫は、昭和59年(1984)11月3日の文化の日に開館した俳諧・俳句専門の資料館です。
東京大学附属図書館の洒竹・竹冷文庫、天理大学附属天理図書館の綿屋文庫とともに日本三大俳諧コレクションと称されています。なかでも当文庫は、収蔵している俳諧・俳句関連の直筆資料を展覧会として公開することを事業の主体にしているのが特徴です。
柿衞文庫の収蔵品は、創始者である俳文学者の岡田柿衞翁(岡田利兵衞)が自身の研究のために必要な資料を求めるという一筋を貫いて収集した俳諧資料を主軸としており、中世の連歌から近現代に至るまで約四百年にわたる俳諧の歴史を通観することができます。
主な収蔵品としては、芭蕉筆「ふる池や」句短冊や素龍筆 柿衞本『おくのほそ道』などが挙げられます。
また、柿衞翁の生家である岡田家は、江戸時代から酒造業を営み、同家の当主たちは郷土伊丹を代表する俳人鬼貫をはじめとする多くの文人墨客と交流を持ちました。
その交流において遺された作品が同家に代々受け継がれたこと、さらに、柿衞翁が伊丹町長を務めていた昭和12年(1937)に鬼貫の直筆短冊に出会ったことが俳諧資料収集のきっかけになったと言われています。
柿衞翁は、俳諧資料の収集にあたり、筆蹟の見極めこそが最も重要であると考え、より多くの直筆資料を実見し、筆蹟等の研究を行いました。
なかでも芭蕉は生涯における研究テーマの一つであり、昭和43年(1968)には『芭蕉の筆蹟』を著して文部大臣賞を受賞しました。芭蕉筆蹟研究の第一人者としての成果は、筆蹟鑑定の基準として現在に活かされています。
このような柿衞翁の功績を顕彰し、その遺志を継承することが当文庫の使命であり、その生涯をかけて収集した俳諧資料を広く一般に展示公開すること、調査研究を行い大切に保存して後世に伝えていくこと、教育普及活動を行うこと、この三つの柱をもとに、誰もが俳諧・俳句に親しめる事業を年間通じて行っています。
教育普及活動においては、郷土伊丹の俳人鬼貫を顕彰する事業として、一般の方や子どもたちを対象にした「鬼貫顕彰俳句」、また15歳以上30歳未満の若い俳人の登竜門として設けた「鬼貫青春俳句大賞」などの俳句募集事業。
さらに、小学生を対象に変体仮名を親しむための「くずし字教室」や中学生以上49歳以下の若い世代の方を対象にした俳句実作講座「俳句ラボ」などの講座事業も実施し、幅広い世代の方に様々なかたちで俳諧・俳句の魅力に触れていただく取り組みにも力を入れています。
今年度は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、予定していた展覧会や講座、一部の俳句募集事業を中止することとなり、皆様にご心配とご迷惑をおかけいたしております。私どもといたしましても、開館以来の異例の状況であり、本当に残念でなりません。
なお、当文庫が位置する「みやのまえ文化の郷」一帯は大規模改修工事のため、令和2年9月から令和4年3月まで長期休館することが決定しております。休館中、展覧会の開催や閲覧の対応は行うことができませんが、各種俳句募集や講座は引き続き行う予定ですので、是非ともご参加いただけましたら幸いです。
令和4年4月には、リニューアルした柿衞文庫として皆様をお迎えできますこと、館員一同心より楽しみにいたしております。