関西現代俳句協会

■2019年12月 青年部連載エッセイ

世界俳句(9)
夢見る俳句(5)

堀田季何


 世界俳句協会の創立20周年を記念した「世界俳句コンファレンス」が今年9月14、15日に東京で開かれた。同協会が世界各地で2年に1回開催している大会の10回目である。報道によれば、スロベニアでの創立大会には11カ国62人が参加し、19年後の今回は18カ国214人が参加した。アジアからは中国(内モンゴル含む)、ネパール、タジキスタン、マレーシア、ベトナム、アフリカからはシリア、イラク、モロッコの俳人が参加した。回によって参加国に変動はあるが、これまで五大陸すべてをカバーしていて、ここまで「世界」的な詩祭は日本では他にない(しかも俳句オンリーの詩祭なのだ!)。

 同協会は、言語によって世界中の人間が分断され、しかも翻訳に完璧がないという事実を踏まえながらも、同協会は「俳句を世界で共有するよううながすために、すべての言語での俳句創作と俳句翻訳の実践を促進すること」を使命の一つとしてきた。毎年『世界俳句』という優れた多言語俳句アンソロジーも発行している。今年3月に発売されたものは15冊目になり、51ヶ国 174人による39言語の503句が収められている。「国際」や「世界」を謳った団体や企画でも、実際は数カ国や数言語しか対応できていない場合が多いが、世界俳句協会は見事に「世界」という名前を関するに相応しい協会だと思う。確かに、世界の大きさに比べれば、世界の俳句人口に比べれば、規模はまだ小さいが、俳句史に、そして世界の詩歌史に種はしっかりと蒔かれた。芽も出てきたところである。少し遠い未来かもしれないが、世界俳句協会が始めた活動はその後継者たちによっていつかバニアンの大樹になるはずだ。

 さて、ブルガリアの詩人アレクサンドラ・イヴォイロワによる俳句を紹介したい。

    Pain.
    in it
    the infinity
    痛み/そのなかに/無限

 『世界俳句2005 第1号』所収の一句。世界俳句コンファレンスの基調講演で夏石番矢も引いていた俳句だが、極めて単純で極めて深い。5つの単語だけなのに、i(y)/n/t(基本的にはinとit)で押韻することで統一性を持たせていて、さらに短く感じられるようになっている。その短さの中で、痛みがブラックホールとホワイトホールを兼ねていて無限がそこに内在している。ただの「infinity」でなく「the infinity」としているところもポイントである。この句が内含している事はそれこそ無限に近く、文章にはできない。俳句だからこそ、あまりにも短くて何も言っているように見えない俳句だからこそ無限の長さの事を言い得ているように思う。そもそも、「Pain」と「inifinity」という抽象度の高い単語だけで上滑りしないのは、句が短いからであり、短いからこそ単語がキーワードとして発動し、読者の連想を次々に誘発されるからである。短歌でも長すぎてしまうのだ。

 結論。毎年出る『世界俳句』は買いです。和製英語で言えばマストバイです。

※著者の都合により、一部表現を訂正しました。2020.06.21

◆「世界俳句(9) 夢見る俳句(5)」:
堀田季何(ほった・きか)◆

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