関西現代俳句協会

■2018年1月 青年部連載エッセイ

葉ねめがね(最終回)
内側が隙間だらけでよかった

池上規公子


1年間書かせていただきました「葉ねめがね」も最後の回です。
このように連載で書く機会は、今後はもう無いような気がしています。
書くのは苦手、めちゃくちゃ時間がかかります。でも、隔月で自分の内側に語りかける、貴重な経験でした。
「トントントン、書きたいことはありますか?」「ないよー!」「えーっ、ちょっとくらいあるでしょーよ!」
でも、内側が隙間だらけの分、ひとの言葉を受け取ることに優れているんじゃないかって思います。聞いたり読んだり。
世の中にはたくさんの素晴らしい書き手がいて、餅は餅屋、おまかせしていればいい。それを私は本屋として、丁寧に紡がれた言葉を集めて、販売をする。

葉ね文庫は、3周年を迎えました。
今、いちばん苦戦しているのは、本の扱いをお断りすることです。とくに個人誌・同人誌。
個人誌や同人誌は、お客さんが欲しいと言ったものや、話題になっているものだけを仕入れるようにしています。
一生懸命企画して作られたものを、お断りするのはほんとうにつらい。
とくに多いのは文学フリマの後です。
置く・置かない、の基準は、本屋を始める前からしっかりと考えていました。本屋を続けるためはブレたらあかんところ。
詩歌の本は、品揃えを良くするよりも、ある程度は限定的に、導線をつくって販売することが必要だと考えています。
とくにうちのような狭い店では、本が多過ぎるのはよくない。
仕入れはほんとうに難しいです。

もうひとつの課題は、本が増えすぎて店が狭くなっていること。
お客さん同士が「ちょっとすみません。」と気を遣いながらすれ違ったり、あっちにはとうてい行けないな、みたいな遠い目をされているのを見て、ごめんなさい片付けます、と念仏を唱えながら、中崎町でもう少し広い物件はないものか、などとすぐの解決にならないことを考えていたのですが。
先日、壁の人・金谷さん(開店前から一緒に葉ね文庫の空間を作ってくれた人。”葉ね柄”やブックカバーもすべて。)が久々に来られて、目をキッと開いて「きくこさん、プチリニューアルしましょう。はじめて危機感を感じました。」と。机に座っている私を見て「本に埋まっている・・・笑」などと楽しそうにしつつも、具体的な改善案を出してくれました。それを聞いて、ああああっ、て。なぜ気づかなかったのだろう。いかに今の空間に縛られていたことか!
ということで、近々、ストレスなく店内を歩けるように改造します。
そして、今はお客さん同士があまりにも一体感が出過ぎてしまう店内。目指すのは、本をゆっくり選びたい時と、人と話をしたい時とで、使い分けができるような空間にすることです。
(このコラムがWEBにアップされる頃には、終わっている予定です。ちなみにまだ何もしていません。)

さて。今回ご紹介する本は小説です。
常連の青年が、私の好みなんじゃないかと教えてくれたことがきっかけでした。
詩歌以外でも、どうしても置きたい本があれば置きます。置きたいと思ってから、たっぷり3ヶ月悩みましたが、仕入れて正解でした。

吉田知子選集Ⅰ脳天壊了
吉田知子選集Ⅱ日常的隣人
吉田知子選集Ⅲそら

のうてんふぁいら、だよ、お前は。まるきり、のうてんふぁいらだ、と言った。(「脳天壊了」より)

3冊ともすべて短篇。日常のようであって、なんかおかしい。違和。 でも読み終えた後は、温かい気持ちが残ったりする。愛やん、って思ったりもする。不快に汗ばんだ世界に、すぅーっと風が通ることも。

出版元の景文館書店さんは、吉田知子さんの作品が好きで、ファンが高じて出版社を始めたそう。
2013年1月の東京新聞で、吉田さんが本の出版についてインタビューに応じています。
その記事の見出しは「好青年に たぶらかされて」。くーっ。
(新聞の記事は葉ね文庫に置いてありますので、気になる方は全文が読めます。)
記事の内容をかいつまんで説明しますと、吉田さんの作品集を出版したい、と会いに来た好青年(景文館書店さん)に対して、吉田さんは、売れないからやめたほうがよい、人生をかけるな、のように必死で反対します。しかし青年は「売れないと決まっているわけではない」などと言って、歩み寄る気配を見せない。「どうしてわからないの。認識不足、非常識、ダメダメダメダメ。」と。でも、本、出しちゃうんですよね。吉田さんが大好きな町田康さんの巻末付きで。(しかもこれがまたおもしろい!)

ハマる方はがっつりとハマります。
短篇なので、どこから読んでもいいです。まずは開いてみてください。

景文館書店さんの本はすべて揃えています。どの本も誇り高い顔立ちで、どこにも属さない一角で、鎮座。見つけてくださいね。

  

◆葉ねめがね(最終回)内側が隙間だらけでよかった ◆

池上規公子(いけがみ・きくこ)
1975年、神戸生まれ。2014年12月に大阪中崎町サクラビルで詩歌メインの本屋「葉ね文庫」をオープン。

葉ね文庫(はねぶんこ)
大阪府大阪市北区中崎西1-6-36サクラビル1F
(営業時間)火・木・金:19時~21時30分/土:11時~21時30分

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