葉ねめがね(3)
バニーガールの視線
池上規公子
葉ね文庫をはじめる2年前、まだ本屋になるなんて決めてなかった頃、
「guca」という期間限定短詩系女子ユニットの解散イベントがありました。
メンバーは、太田ユリさん・佐藤文香さん・石原ユキオさん。
私は「guca」をこの解散イベントの告知で知ったのですが、こんなにかっこいい活動をしている人たちがいるのか、と衝撃を受けたものです。
「guca」の冊子は、短詩に興味がない人たちに配っても、間違いなく、おしゃれでかわいくておもしろい冊子として受け入れられるでしょう。
短詩のかっこよさ、に気づく人もいるかもしれないと。
あと、『guca 4』の表紙、バニーガール姿で感情がなさそうに視線を向けている太田ユリさんの写真に強く惹きつけられていました。
(写真はguca4を販売していた時のようす、今も閲覧用に少しあります。)
遠くから眺めていたアイドル3人と、なんと、その後、関わっていくのです。まったく違う方面から、不思議なスピード感で。
まずは太田ユリさんでした。
開店準備中の頃、私のブログをたまたま読み、本の寄贈を申し出てくださったのです。
開店にあたりいちばんの課題は、目玉となる本の少なさでした。
新刊で話題の本は大型書店でも買えますし、中崎町の古いビルの半地下まで来てもらうためには、手に入りにくい本を置いておきたい・・・。自分が集めていた本だけでは弱かった。そんななか、ユリさんが送ってくれた本は、私も手にしたことがなかった、すでに市場に出ていない本がたくさんありました。
棚を強くしてくれたのは、私が眺め続けた写真の、素っ気ない目を向けていた、その人でした。
次は佐藤文香さん。
開店当時、ちょうど『君に目があり見開かれ』が発売されたばかりで、葉ね文庫にはまだ句集がそれほど充実していなかったのですが、この本はとてもよく売れました。短歌のお客さんも買いに来るし、知らずに入って来た方も気に入って買って帰られるしで。
そしてなにより、私がめちゃくちゃはまっていたのです。
夜を水のように君とは遊ぶ仲
/佐藤文香『君に目があり見開かれ』より
ぬわーーー。鳥肌が。
この句集の良さを、この場で紹介する必要はないですから・・・、愛は溢れておりますが、このへんにしておきます。
で、出版社の港の人さんから、イベントのお誘いをいただいたのです。
嬉しかったなぁ。ちっちゃい生まれたての本屋に、声をかけてくださったのですから。
葉ね文庫、初のイベントでした。
イベントはこちらに記録しています。(読み返すと、木下龍也氏が客席にいたりしておもしろい。)
http://hanebunko.com/blog/?p=346
そして、石原ユキオさん。
今、「葉ねのかべ」という展示をやっていて、この企画はすべてコーディネーターの牛隆佑さんにおまかせしているのですが、牛さんが選んだ企画の第2弾が石原ユキオさんのかべ、でした。
葉ねのかべについてこちらに記録しています。店内が憑依されています。
http://hanebunko.com/blog/?p=511
まずは『俳句ホステス』で石原ユキオさんを知ったので、ぶっとんだ人をイメージしていたのですが、ふだんのユキオさんはとても落ち着いていて、何時間いっしょにいても居心地が良くて、でも、いつかすごい遠くへ行ってしまう人なんだろうな、などと思ったりもしました。
今回はずいぶん思い出話が長くなりました。
一冊、詩集を紹介したいと思います。
萩野なつみ詩集『遠葬』(思潮社)
剥がれおちるばかりだ
いたずらに雪、
義手の林におまえが降らせて
うすくわらう(ただいま)
いたずらに薔薇、
義眼の海にわたしが撒いて
とほうもなく燃やす(おかえり)
平等に嚙み砕かれた道筋の、そのはたてに、
立ち竦む喪主の。定められたとおりの手順で、
切り落とした肺葉に浮かぶ影、おまえの。
(「遠葬」より引用)
ちゃんとひとりになりたい時に、私はこの詩集を読みます。
たとえば休みの日、夜更かしの明け方に。たとえば本屋終わりのカフェで、ビールを飲みながら。
ぽつり、ぽつりと落ちてくることばが、静かに的確に発火する。
どこにいても深く潜れてひとりに。
健やかであっても、意識的に心を静かに保ちたい時、ないですか。