てにを、はっ。(2)
季語に勝手に句読点を入れる会
橋本小たか
誰もが一度はやってみたことがあるに違いない。
単語に勝手に句読点を入れてみる遊び。
「季語に勝手に句読点を入れる会」はその名の通り、季語に句読点を入れてみる会だ。ことのついでに濁点その他も入れている。
以下はその活動報告である。
<一月>
ぐわんてう【元朝】→ぐ、わんてう
- ※
- 唐の詩人の名のようになった。
とそ【屠蘇】→ど、ぞ。
- ※
- お誘いの感じが高まった。
はがため【歯固め】→はが、ため。
- ※
- 何か非常に大事なことを突きつけられている感じが出た。
きりざんせう【切山椒】→きり・ざん、せう?
- ※
- 三角眼鏡をしたマダム感が出た。
しだ【羊歯】→し、だ。
- ※
- 結果的に「おきてにそむく者には…」のつづきになった。
はるぎ【春着】→ばるぎ
- ※
- 強くなった。
おりぞめ【織初】→おりぞ、め。
- ※
- くやしい感じと哲学感が出た。仲間に以下のもの有り。ぬひぞ、め。うりぞ、め。かひぞ、め。すきぞ、め。
はつかがみ【初鏡】→は、つかがみ
- ※
- 音読しにくくなった。
さんかんしをん【三寒四温】→さ。んか。んし。をん。
- ※
- 音読しにくくなった。
ゆき【雪】→ゆ。き。
- ※
- 雪の形状が見える化された。
スキー→ス。キ。ー
- ※
- 雪の形状が見える化された。が、「ー」の読み方が分らなくなった。
<二月>
いそかまど【磯竈】→いそか、まど
- ※
- 人名に近づいた。
<三月>
へびあなをいづ【蛇穴を出づ】→へ・びあな・をいづ
- ※
- 呪文に近づいた。HE-VIANA-OIZ。
やまわらふ【山笑ふ】→や、まわらふ。
- ※
- とても音読しにくくなった。
みづぬるむ【水温む】→み、づぬ、るむ
- ※
- わいせつな感じが出た。
つばき【椿】→っつばき
- ※
- 落ちる感じから、飛び散る感じに変った。
<四月>
チューリップ→チュ、ーリ、ップ
- ※
- またも「ー」の読み方が分らなくなった。「ップ」の読み方も人まかせに。
スヰートピー→スヰ~トピ~
- ※
- 松田聖子のニュアンスが出た。
とりのす【鳥の巣】→トリノス
- ※
- SFチックになった。同じ仲間に、フルスがある。
からすのす【鴉の巣】→カ・ラスノス
- ※
- オペラ用語の匂いが出た。同じ仲間に、チ・ドリノス、ヒ・バリノスがある。
てふ【蝶】→ってっふ
- ※
- 躍動感がプラスされた。
こんにやくうう【蒟蒻植う】→こんにや、くうう。
- ※
- 別の日本語になりそうで、ならなかった。
やままゆ【山繭】→や、ままゆ
- ※
- 音読しやすくなった。
はぎわかば【萩若葉】→はぎわ、かば。
- ※
- 納得しづらくなった。仲間に、くさわ、かば。むぐらわ、かば。けしわ、かば。きくわ、かば有り。
しやくなげ【石楠花】→シヤクナ、ゲー。
- ※
- ロックンロールの命が宿った。
<五月>
セル→セ? ル!
- ※
- 思ったほど、おもしろくならなかった。
ネル→ネ? ル!
- ※
- 思ったほど、おもしろくならなかった。
<六月>
だいだいのはな【橙の花】→だいだ、いのはな
- ※
- うまくまとまった。
さみだれ【五月雨】→さみだれ
- ※
- さ、みだれ。さみ、だれ。さみだ、れ。どこに点をつけてもさほど違和感がなかった。
げぢげぢ【蚰蜒】→げぢ@げぢ
- ※
- ちょっとだけ、かわいくなった。
げぢげぢ【蚰蜒】→げぢ≠げぢ
- ※
- ちょっとだけ、哲学的になった。
はあり【羽蟻】→ハアリ?
- ※
- パードン? みたいになった。
ががんぼ→が・がんぼっ!
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- 陽気な笑顔が見えてきた。
みなみ【南風】→みなみ…
- ※
- 「タッチ」(あだち充)の感じが出た。というか、出した。
なつざぶとん【夏座布団】→なつ、ざぶとん
- ※
- 海岸に寄せる白波のニュアンスが出た。
とういす【籐椅子】→とぅいす
- ※
- 春日の勢いが出た。
もう、飽きてきましたか? ここからやっと後半です。
<七月>
きんぎよも【金魚藻】→き、んぎよも
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- そこは中国由来の魚、血筋が出た。
どよううなぎ【土用鰻】→どようう、なぎ
- ※
- 重く、けだるくなった。
<八月>
すずりあらひ【硯洗ひ】→す・ずりあらひ
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- 洗い方が激しくなった。
つくつくぼふし【法師蝉】→つ・くつくぼ・ふし
- ※
- ごつごつした。
いなづま【稲妻】→まづない
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- 逆から読んでみた。安心感が出た。
しらぬひ【不知火】→ひぬらし
- ※
- 逆から読んでみた。違う味が出た。
<九月>
うすばかげろふ→うすばか・げろふ
- ※
- 一度は思ったこと、ないですか。
はげいとう【葉鶏頭】→はげ・いとう
- ※
- 一度は思ったこと、ないですか。
かひわりな【貝割菜】→なりわひか
- ※
- 逆から読んでみた。職を問われた。
<十月>
かかし【案山子】→かがし、
- ※
- 生まれたての「けだし」みたいになった。
ざくろ【石榴】→ザ・クロ
- ※
- 言い切った。
えびすかう【夷講】→エ・ビスカウ
- ※
- 素敵な外国語になった。翻訳すれば恐らく「さあ、行こうぜ!」。
ざぼん【朱欒】→さほん
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- やや、すっきりした。
<十一月>
しちごさん【七五三】しち‐ご‐さん
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- フォーメーション感が出た。実は漢字のほうが出る。七‐五‐三。
いてふおちば【銀杏落葉】→いてふおちば、
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- 先につづく気が出た。仲間に、「かきおちば、」がある。
<十二月>
ふゆがすみ【冬霞】→ふゆが、すみ。
- ※
- ちょっと切なくなった。
たどん【炭団】→TADON?
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- 強引に、今風感を出してみた。
ストーヴ→スートーヴ
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- 熱くなさそうになった。且つ夢のなかの故郷に近づいた。遠縁に、スーチーム、ペーチーカ、コーターツ有り。
くさめ【嚔】→QSAME
みづばな【水洟】→MIZ-VANA
- ※
- TADON?の調子でやってみた。
ふところで【懐手】→ふ。ところで
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- 元のことばと、わりあい合った。
うひよう【雨氷】・むひよう【霧氷】→うひよう=むひよう
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- コンビ名に近づいた。あるいは、同じものに見えてきた。
みそかそば【晦日蕎麦】→みそかそ、ば。
- ※
- もしも君が心無いあれこれを言われたならば、だ。
以上をもって報告を終る。
参考文献『新歳時記 増訂版』(高浜虚子・三省堂)
◆「てにを、はっ。(2) 季語に勝手に句読点を入れる会」:
橋本小たか(はしもと・こたか)◆