関西現代俳句協会

■2022(令和4)年8月

かみがた通信句会選句発表

 かみがた通信句会が好評で今年も実施。
 そんな中、ウクライナの戦火を句に残せないかとの思いで「戦」「火」「鉄」という字を席題にすると、直接戦争を詠んだ句、戦争を思い起こさせる句など多彩な句が。
 今回のかみがた通信句会の参加者は98名。
 投句のなかで無記名の方が3人あり、投句をしたのに会報が届かないというのが無記名の方です。
 かみがた通信句会報が届かないという話を聞かれたら、事務局まで連絡を(>>ご連絡はこちらから
)。すぐに会報を郵送させて頂きます。

久保 純夫 選

32 特選 水鉄砲深く倒れてしまいけり 岡田 耕治
21 入選 一穢なき火の色蜂の巣を焼け 中村  遥
24 入選 まだ少しこの世にありし白牡丹 谷川すみれ
30 入選 昼からはすでに絶望したる蝉 木村オサム
37 入選 戦場に行かずに済んだ蝸牛 髙木 泰夫
46 入選 金魚田のほかは早苗田青みたり 山ア  篤
81 入選 戦争の始まりバナナむくように 寺町 容子
91 入選 蚊遣火のやがて愉楽となりにけり 常原  拓
96 入選 吾子の手に匂う鉄棒梅雨晴間 稲野 一美
102 入選 泳ぎ来し人の手を取る雨中かな 平原 陽子
171 入選 手を挙げていても撃たれる水鉄砲 高橋 将夫
186 入選 駄目押しは軽めに叩き油虫 内田  茂
【特選句 選評】
 
水鉄砲で遊び始めたのは、大人と子どもたち幾人かであろうか。約束事として、撃たれた者は起き上がれない。ただ時間の経過とともに、その情況が変わり始める。遊びではなくなる。水で撃たれても、死んでしまうのだ。
 

岡田 耕治 選

72 特選 ごきぶりを叩いて尖る新聞紙 西谷 剛周
22 入選 飛ぶものの光に開く牡丹かな 中村  遥
24 入選 まだ少しこの世にありし白牡丹 谷川すみれ
37 入選 戦場に行かずに済んだ蝸牛 髙木 泰夫
40 入選 歓声を滝の飛沫としていたり 曾根  毅
44 入選 消える時蛍の照れが澄んでいる 葛城 広光
66 入選 蒸し菓子の薄紙はがす梅雨じめり 西谷 稔子
96 入選 吾子の手に匂う鉄棒梅雨晴間  稲野 一美
114 入選 稲の花誰に会うても故郷かな 熊川 暁子
158 入選 太極拳の気息整う松の芯 山アよしひろ
161 入選 戦なき空をまつすぐ燕来る 髙橋 保博
171 入選 手を挙げていても撃たれる水鉄砲 高橋 将夫
【特選句 選評】
 
この即物的な表現が好ましいと思います。新聞を筒にしてごきぶりを叩いたのですが、そのことによって筒がひしゃげてしまった。それを「尖る」という動詞で、作者の感情をも表現されたところが見事です。
 

志村 宣子 選

81 特選 戦争の始まりバナナむくように 寺町 容子
5 入選 戦争をひり出している心太 久保 純夫
13 入選 狐火が河内音頭にまぎれこむ 冨田  潤
23 入選 争いの澱みにつける煙草の火 谷川すみれ
36 入選 六波羅の真夏のアスファルトの臭う 久留島 元
41 入選 戦場のモノクロと化し雲の峰 宮武 孝幸
52 入選 ディズニーのプールに星が降りてくる 横田 明美
120 入選 残像を追っかけている蛍狩 四方 禎治
172 入選 そのうちに方舟浮かぶ天の川 高橋 将夫
175 入選 火襷の底に風あり曼珠沙華 夏  礼子
178 入選 夕暮や山藤をどる老の坂 森  節子
196 入選 二グラムの螢五グラムの赤紙 木野 俊子
【特選句 選評】
 
神はアダムとイブに禁断の実を食べる事を禁じたが蛇にそそのかされ食べてしまい楽園を追われる。バナナは免疫細胞を活性化する庶民の食べ物。戦争の動機は密やかな動機で始まるのだろう。バナナの皮を剥ぐ様に。
 

鈴鹿 呂仁 選

135 特選 影までも焦がしひと夜の灯取虫 村田あを衣
13 入選 狐火が河内音頭にまぎれこむ 冨田  潤
22 入選 飛ぶものの光に開く牡丹かな 中村  遥
36 入選 六波羅の真夏のアスファルトの臭う 久留島 元
42 入選 蝉の穴覗き寿命を長くする 宮武 孝幸
59 入選 顔のない二人のピエロ遠花火 こにし 桃
63 入選 火取虫平常心を持ちしまま 三宅  侃
111 入選 花野には消せない過去と火の匂い 福井ちゑ子
120 入選 残像を追っかけている蛍狩 四方 禎治
146 入選 金魚悠悠終末時計加速中 塩野 正春
175 入選 火襷の底に風あり曼珠沙華 夏  礼子
186 入選 ほうたるは埋火となる籠の中 無 記 名
【特選句 選評】
 
誘惑につい邪念を抱いてしまう今の世の中に警鐘を鳴らしている一句。火取虫の一夜のアバンチュールの結果を上五の措辞が上手く引き出しており、季語の持つ行動特性と人間社会とが重なり響き合っている、と言える。

曾根 毅 選

171 特選 手を挙げていても撃たれる水鉄砲 高橋 将夫
21 入選 一穢なき火の色蜂の巣を焼けば 中村  遥
29 入選 終末の火の色淡しさくらんぼ 木村オサム
51 入選 論戦は佳境ビール缶ぐしゃり 横田 明美
62 入選 花蜜柑島から島へ通学す 片岡 宏子
72 入選 ごきぶりを叩いて尖る新聞紙 西谷 剛周
91 入選 蚊遣火のやがて愉楽となりにけり 常原  拓
103 入選 夕焼が血や火の色にならぬよう 中澤 矩子
114 入選 稲の花誰に会うても故郷かな 熊川 暁子
149 入選 ビードロの火いろ海いろ旅惜しむ 無 記 名
168 入選 夏布団伸び放題の子の手足 和田 Y子
185 入選 空焚きの鉄の匂ひや梅雨に入る 無 記 名
【特選句 選評】
 
簡単に書かれていますが、水鉄砲の物の存在感とその本質が表われています。また「降参」にかかわる人間関係もあり、深みがあります。
 

高橋 将夫 選

57 特選 戦争の反対は夢アマリリス 赤窄  結
9 入選 鉄屑と化して戦車は麦の秋 十河  智
21 入選 一穢なき火の色蜂の巣を焼けば 中村  遥
35 入選 向日葵の種が戦地を知っている 久留島 元
48 入選 入口は淡し出口の濃紫陽花 蔵田ひろし
52 入選 ディズニーのプールに星が降りてくる 横田 明美
81 入選 戦争の始まりバナナむくように 寺町 容子
92 入選 言葉みなみづいろとなるソーダ水 常原  拓
93 入選 大山火事自ら燃える大自然 髙橋 卯三
120 入選 残像を追っかけている蛍狩 四方 禎治
123 入選 狐火と話のできる祖父死せり 佐々木裕嗣
195 入選 親と子の線香花火消費税 木野 俊子
【特選句 選評】
 
戦争の反対語といえば普通は平和だろう。それを掲句では夢と言っている。戦争は多くの命を奪い、生活を奪う。確かに多くの人々の夢を奪うのだ。華麗なアマリリスは奪われてはならない夢の象徴。
 

花谷 清 選

57 特選 戦争の反対は夢アマリリス  赤窄  結
22 入選 飛ぶものの光に開く牡丹かな 中村  遥
29 入選 終末の火の色淡しさくらんぼ 木村オサム
34 入選 黒南風や容器の中のビオトープ 今村タケシ
36 入選 六波羅の真夏のアスファルトの臭う 久留島 元
40 入選 歓声を滝の飛沫としていたり 曾根  毅
93 入選 大山火事自ら燃える大自然 髙橋 卯三
160 入選 キリンの仔の角は亜麻色風光る 南  悦子
162 入選 笹百合を神に捧げて巫女の舞い 髙橋 保博
170 入選 一筋の飛沫の中や梅雨の蝶 寺田 須美
175 入選 火襷の底に風あり曼珠沙華 夏  礼子
187 入選 錆深き鉄路の果ての青山河 無 記 名
【特選句 選評】
 
〈戦争〉の反対は〈平和〉でなく〈夢〉と断定している。ここで〈夢〉は、容易に実現しないという含みが感じられる。斡旋されている下語のアマリリスがうつくしい。
 

西谷 剛周 選

81 特選 戦争の始まりバナナむくように 寺町 容子
5 入選 戦争をひり出している心太 久保 純夫
32 入選 水鉄砲深く倒れてしまいけり 岡田 耕治
37 入選 戦場に行かずに済んだ蝸牛 髙木 泰夫
42 入選 蝉の穴覗き寿命を長くする 宮武 孝幸
51 入選 論戦は佳境ビール缶ぐしゃり 横田 明美
57 入選 戦争の反対は夢アマリリス 赤窄  結
120 入選 残像を追っかけている蛍狩 四方 禎治
137 入選 炎天やころがり止まぬ鉄兜 川崎 雅子
171 入選 手を挙げていても撃たれる水鉄砲 高橋 将夫
182 入選 駄目押しは軽めに叩き油虫 内田  茂
185 入選 空焚きの鉄の匂ひや梅雨に入る 無 記 名
【特選句 選評】
 
ウクライナの戦争の映像は明日の日本かもと過ぎる不安。変らぬ日常生活の水面下で侵略の準備が着々と進み、バナナを剥く様にミサイルの発射ボタンが押され、機銃掃射の引き金が引かれる。

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