関西現代俳句協会

第1回「上方きめら句会」選評

(2020年7月11日開催)

【投句参加者=45名 選句参加者=44名 アイウエオ順 (太字・選句参加者)】
赤窄結 赤松勝 稲野一美 衛藤夏子 岡田一実 金山桜子 桂凛火 河本かおり 片岡ひろ 北村武衛門 北村峰月 木村オサム 久保彩 久保純夫 久留島元 小西瞬夏 こにし桃 斉藤あかね 塩見恵介 諸葛孔明 十河智 橋卯三 高橋康子 谷口道子 知念哲庵 辻田真波 冨田潤 中島葱男 夏銀河 西谷剛周 野田清月 八王寺宇保 福良ちどり 藤田俊 星野早苗 増田暁子 真宮マミ 満田三椒 宮武孝幸 森山みぞれ 山ア篤 弓場あす華 横井来季 横田明美 吉村紀代子

たくさんのご参加ありがとうございました!
さて、点数順に並べて選句結果を発表します。
3句選でしたが選評結果の中、コメントの上にある、★★★は「1番に選んだ句」、★★は「2番目に選んだ句」、★は「3番目に選んだ句」ということです。
したがいまして、紹介する順位(俳句に順位はなく、どれも名句ですが・・・)は、@選句得票順、A★のトータルの数が多い順、それでも同点の場合はB★★★が多い順C★★が多い順D清記番号順ということで進めています。
ご了承ください。


【8点句】最高得点句です。おめでとうございます!

47 金魚屋さん昔役者をしてたとか     冨田 潤
★★★現代では古風に感じられる金魚屋さんが昔役者をしていたというのは説得力があります。今も、金魚屋を演じているのかも、と思わせられました。(星野早苗)
★★★金魚屋さんが役者から金魚屋になった経緯を色々と想像してしまいました。深掘りせずに「とか」と伝聞になっており、真偽が分からないところも想像の余地があり良いと思います。(辻田真波)
★★★金魚屋さんの店番が役者であることが、さして目新しい感じはしない。なのにお祭りの空気に押されて普段話さない人種とコミュニケーションが起こる。そうするとなんだか今日は元々役者なのにこの場所で金魚屋として働いてることが不思議で、なんで役者をやめたんだろう?行き着いた先がなぜ金魚屋さんだったんだろう?と考えてしまう。お祭りのその日にしか考えないくせに、なんだか人生って儚いなぁとか帰り道に話しして、そんな記憶も少しずつ薄れる。。。そんな一瞬を捉えてる句ではないでしょうか。(斎藤あかね)
★★いかにもそうなのかと思わせる、軽みとユーモアのある句だと思います。肩に力が入っていない詠みっぷりに好感が持てます。(中島葱男)
★★下町の匂いのする粋で温もりのある句だと思いました。夜店の金魚じゃなくて昼間の金魚屋さん(「金魚売り」でもなく)と、「とか」で見える語らいの景色。(森山みぞれ)
★★軽妙な語り口が楽しい。金魚やさんとわざに俗っぽい言い方が昭和感や下町感を感じて粋。(夏銀河)
★ドラマのワンシーンのようで想像力が湧きます。何気ない言葉の選択が素敵です。(増田暁子)
★魅力的な金魚屋さんが思い浮かぶ(河本かおり)
★(藤田俊)

【7点句】惜しくも次点句でした!

71 相続の捨印三つ梅雨晴間         北村武衛門
★★★非日常の事柄を詠まれ梅雨晴れ間との兼ね合いが面白い。捨印三つが良い。(北村峰月)
★★★捨印3つと淡々と相続の手続きを表現している。簡潔な表現であるからこそ、その中のストーリーを想像できる。梅雨晴間の季語から、スムーズに手続きが終わったことを連想する。(こにし桃)
★★捨印の朱が利いている。(岡田一実)
★★色々ややこしい問題もあるであろう相続問題。ようやく合意ができ書類も整い、捨て印をおせるところまできた。その安堵感と梅雨の晴れ間の季語がマッチしていると思いました。「捨印三つ」も効いていると思います。(高橋康子)
★大切な人を看取ってから慌ただしく続いていた様々な雑事が一段落した時の安堵感となんとも言えない寂しさや故人への想い。梅雨晴の一瞬に凝縮されていました。(森山みぞれ)
★煩わしい相続の手続きが完了した安堵感、梅雨晴間が似合う。(横田明美) ★あれこれ言いたいことはありそうなのに「捨て印3つ」の潔さ魅力です。相続にまつわるさまざまな思いがここに集約されているようです。内容は重いけれど重苦しくないのがいいですね。(桂凜火)

51 ぬれぎぬを着て梅干になっている       赤松勝
★★濡れ衣を我慢しなければ成らない時は 悔しくて 「梅干しに成っている」がぴったりです(吉村紀代子)
★★最近のネット社会では、ぬれぎぬという悔しい状況に陥る事が多発している様だが、梅干しになる事くらいしか対処法がない場合もあるだろう。(卯三)
★★正直に生きて来て、でもぬれぎぬを着せられ結果は梅干しですか。ユーモアに人生の喜怒愛楽を例える句ですね。悲壮感など無くてとても胸に染み入ります。(増田暁子)
★★言い訳をせず、また、弁明もせず、長年実直に生きてきた様子が伺えた。(こにし桃)
★濡れ衣に言い訳や抗議もせず、ただただ、シワシワに干からびるまで口をつぐんでいようとする心情に共感。多分、たいそうな濡れ衣ではなさそうなで、滑稽味を感じる。(谷口道子)
★濡れ衣を着せられたのではなく、自ら着ているのだ。そういえば塩に漬けられ、天日干しされ、随分ひどい目に逢ったけどやっと一人前になったのさ。(山ア篤)
★(稲野一美)

【6点句】

5 中村哲の轍ゆきけり蟻の列       桂凛火
★★★今年客死した中村哲。その業績を轍と書いた作品は記憶に残る。(久保純夫)
★★★轍に蟻の列の感性。(冨田潤)
★★★小さな生物の黙々とした歩みに、残された側の悼む気持ちと無念さ、力強い責任感を感じました。時事句は避けがちでしたが、詠まねばならぬものを詠んでくださったことに感謝。(森山みぞれ)
★★★中村哲さんの闘魂を記憶する句として選ぶ。(高橋卯三)
★★★中村医師を悼むが如き蟻の葬列。(横田明美)
★★★蟻の列は、中村哲氏の偉大な業績を引き継ぎ歩む人々を表している。なんとも惜しまれる死である。(知念哲庵)

【5点句】

16 雨粒に触れて梔子ほどけゆく   稲野一美
★★★とても繊細なところを切り取られていて、詩情を感じました。(金山桜子)
★★★雨粒に触れてという表現が優しい雨を想像させます。雨に濡れキラキラする葉と白い梔子の甘い香りに包まれる空間。ほどけゆくがゆったりとしていいですね。(真宮マミ)
★★雨を待っていて咲く梔子の花。匂いが漂って来る。(北村峰月)
★★雨粒が、咲き始めるスイッチのようになっているのが良いです。(福良ちどり)
★梔子の花の咲くのは梅雨。花も香りも雨の中で毎年残念に思っていました。でも「雨粒にふれて」と言われると、雨が優しい存在になりますね。梔子と雨の親和性に気づかされました。(星野早苗)

26 荒梅雨や溝の傷みしビートルズ   八王寺宇保
★★★ビートルズの初期のLPレコードでしょう。何度も何度も聞いているので、レコードの溝にも傷がついていて、微妙な雑音も。無機質の今のデジタルでは考えられないが、アナログレコード盤に生きもののような愛着を感じる句。微妙な雑音と荒梅雨がうまくマッチ。(満田三椒)
★★青春の日のビートルズ、荒梅雨と傷んだLPの音がマッチして表現に無駄が無い。(横田明美)
★★ビートルズの傷んだレコード盤という所、溝の傷みしビートルズと諷喩で諭した所がすばらしい。(森本突張)
★いま古いレコードを捨てようとしている。また聞くところではレコード復活の兆しもあるという。梅雨で閉じ込められた作者は聞いている方なのだろう。(十河智)
★聴き込んだ古いレコード。溝が痛んでもなほ聴きたい味わい深い音色。荒梅雨!線状降雨帯の被害の大きさ被災者の苦悩を見るにつけても、ビートルズの曲 イエスタデイを味わいたい。(北村武衛門)

【4点句】

6 黒南風に指サックからくる睡魔       藤田俊
★★★睡魔の出所を指サックから(ビラかチラシを捌いていた途中か)と見立てた所がお手柄だ。(森本突張)
★★★指サックからくる睡魔、というところに共感(稲野一美)
★★指サックと睡魔の取り合わせがいい。単調な作業、机に向き合っていることがすぐイメージできる。PCではなく紙に向き合っている。古いオフィスや図書館などで、遠くに雷鳴が聞こえるような、空気がひんやりし出しているエモい感じ。(斎藤あかね)
★指サックが一語で状況を表している。きっと、眠くなるような単純作業なのだろう。(満田三椒)

72 手話の手の嘘つく小指はじき豆     福良ちどり
★★★手話のことをよく知りませんが、小指も重要な役目を果たしているものと想像しました。小指の動きと「はじき豆(蚕豆)」がユーモラスで、その句意の深さを鑑賞させていただきました。(野田清月)
★★手話でつく嘘が可愛い。「はじき豆」との取り合わせで、対話が生き生きと弾けている様子が分かる。(知念哲庵)
★嘘は手話でもつけるのか。但し小指の動きに癖が出ます。はじき豆を弾く様に。(北村峰月)
★はじき豆を取り合わせたとことが面白い。(小西瞬夏)

【3点句】

90 人間を無名化数値化半夏生     諸葛孔明
★★★"コロナ禍の中、様々な数値が提示され、語られています。しかし括られてしまうには歯痒い無名化されてしまった個々の言い分というもを忘れてはならないと思うのです。半夏生の白と中七の無名化が響き合っている。(北村武衛門)
★★★漢字を連ねたところが面白い。また物忌みの「半夏生」の季語も不穏な調子を返って駆り立てて合っていると思いました。(夏銀河)
★★★今年ならではの句。コロナ禍でにおける予防措置を軽いリズムに乗せて表現しているのが面白いと思いました。個人情報をとりながら個人を特定できる部分は排除して、数値化して感染予防に活用する昨今の取り組みがリズムよく作られていて、季語の半夏生の音とも響きあっていると思います。(高橋康子)

85 青春はコップに浮かぶさくらんぼ     木村オサム
★★★浮かんでるさくらんぼは可愛くて、瑞々しい青春そのもの。しかしコップの中にある。青春の形容をこの様に表現できるのは作者の柔軟な視点ですね。素晴らしいと思いました。(増田暁子)
★★新鮮な明るさ。(冨田潤)
★★さくらんぼが水に浮くのかな。青春など過ぎてしなえばそんなもの。おおいに納得。(宮武孝幸)

21 さくらんぼ君もさいごはひとりだよ     衛藤夏子
★★★死ぬときはひとりぽっちひとりぽっち、納得している。さくらんぼが気分を明るくポジティブ思考にしてくれる。(宮武孝幸)
★★さくらんぼは食われるとき、必ず片方が残る。きみ「も」ということで自分も死ぬときは一人なのだということを遠回しに表現しており、軽い文体で重たい内容の詩を詠む飄飄さに惹かれる。(横井来季)
★「君も」とされていることで、この句の主体の人物もさいごをひとりで迎えているのだろうか、と想像されました。そう解釈するとなんだか寂しくて大人っぽい感じがしますが、「君」という呼び方や「さくらんぼ」という題材からは少し可愛らしくて若い感じもします。その組み合わせが面白いと思います。(辻田真波)

53 葉書来る梅雨の湿りを帯びてゐて     金山 桜子
★★★"「葉書」がよい。封書だと文面が梅雨に直接さらされることがない。きっと情味のあふれる便りなのでしょう。なにげない日常の視点が素晴らしい。(赤松勝)
★ちょっとした驚きを捉えている。(岡田一実)
★丁度今の時期で、ポストから取り出す郵便物は、梅雨湿りである。(片岡ひろ)

59 冷蔵庫中身は個人情報です         辻田真波
★★★視点が斬新!普段の自分の家の冷蔵庫の中はあまり見られたくないですね。お客さんが来る時にはちょっと上等なワインなど入れたりして(^^)(中村葱男)
★中には個人情報?って今どきの隠し場所?  面白いです(吉村紀代子)
★一瞬川柳かもと思ったが、今日の「個人情報」過多社会、異常とも思える個人データ接触神経症の事態を痛烈に揶揄して面白い。「冷蔵庫」の発見がお手柄。(赤松勝)

73 十指のイナヅマ盲目のピアニスト     中島葱男
★★人間の能力の極限に感動し、稲妻と例える視力を持つものの感覚、演者は盲目というどんでん返し。実際この様な演奏を見たことがあるので、わかる。(十河智)
★★イナヅマが片仮名なのは気になったが、季語の稲妻をこのように使うセンスに惹かれた。(小西瞬夏)
★盲目のピアニストと言えば辻井伸行さんが連想されるが、演奏している彼の指を見てイナヅマと見立てられた所がすばらしい。(森本突張)

【2点句】

2 疫病を避くる一人のソーダ水     野田清月 
★★★家族も守らなければ ですが まず 「私を」・・・(吉村紀代子)
★★★疫病を避け、やむなく一人居を続けている所在なさ、わびしさとソーダ水の泡の烏有感、はかなさが良く呼応している。(谷口道子)
★★★コロナ禍の家籠りを直接言わないところが妙味。(八王子宇保)

27 熊蝉やひとを狂わす周波数     河本かおり
★★★熊蝉のあのうるさい鳴き声が、ひとを狂わせる周波数とは納得。(西谷剛周)
★★実感あり。おさまらない耳鳴りの如くである。(北村武衛門)

57 露坐仏の目まで濡らして夕立過ぐ     北村峰月
★★★暗闇の眼玉濡らさず泳ぐなり  鈴木六林男 せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ 野沢節子 などを思い起こさせる。「目まで濡らす」という壮絶な生き様。それがこの作者によると、露座仏であるという。目が濡れるということは涙を流すということにもつながる、人間の生きる苦悩を描いている。(小西瞬夏)
★★大仏を擬人化する手法が面白いと面白いました。心穏やかな大仏と激しい夕立の取り合わせが素敵です。このコロナの時世に仏様が心を痛めているようです。(辻田真波)

65 短夜の文豪に聴く死の未来     宮武孝幸
★★★文豪、死の未来など少しおおげさかな、とも思いましたが、短夜という季語の選択が上手く、タナトスのちらつきもよかったです。(衛藤夏子)
★★私も死ぬのが怖い。作者も死というものを先達がどのように考えたのか、文献を探る短夜。(満田三椒)

70 田鰻の穴に土塊田水張る     西谷剛周
★★★地味だが対象をしっかり捉えようとしている。(岡田一実)
★★農事をなかなか詠めないのです。子どもの時にあれだけ田んぼで遊ばせて貰ったのに、農事を詠もうとするとすぐかっこつけてしまうのです。この句、すごく泥の匂いがします。(塩見恵介)

23 メロンごろんときどきフェイクニュースかも 久留島元
★★★爬虫類のように硬く無機質な皮を持つメロンがごろんと大きく転がる姿はどことなく嘘くさい。それと同様に今見ているニュースにもフェイクニュースが混じっているのではいかと考えるという取り合わせのおもしろい俳句。(横井来季)
★一読して、楽しい俳句。上五のリズムの良さと、取り合わせがありきたりでないところが魅力になっているのかもしれない。(金山桜子)

31 葛餅のやがて女に成り済まし     久保純夫
★★★葛餅を食べるとき男でも女でも淑やかな仕草になる。その仕草を女に成り済ますと表現したところが言い得て妙。(河本かおり)
★食べるものが女になるという、発想。(久保彩)

34 こんな家族ならば冷奴にならう     横井来季
★★★雑ながらもどんな家族か楽しく想像できるところがいい。(藤田俊)
★冷奴という言葉選びが新鮮。(久保純夫)

37 ががんぼよ目立たぬように死にに来い     宮武孝幸
★★★死にに来いの呼びかけにこめられた悲哀とでもいうものに心惹かれたががんぼのかぼそき足のようなもの、それはたぶん自分にも重ねられているのではないかと思う。死をことさら大きくとらえるのではなく、身近なものとしてとらえる視線を感じました(桂凜火)
★言っていることはとても乱暴だけれど、なぜか切なさと生の肯定も感じる句。「よ」が優しく効いているかと思いました。(夏銀河)

50 夏の川誰も知らずに犬育つ     斉藤あかね
★★★野良犬かな?季語「夏の川」の強くキラキラしたイメージが、子犬を丈夫に育てたように感じます。(福良ちどり)
★(藤田俊)

10 植田はや峡の夕風とらへをり     八王寺宇保
★★まだ戦ぐほども育っていない早苗の様子が目に浮かび、なんとなく微笑ましい気持ちになりました。(星野早苗)
★★田植えを終えた直後、もうその早苗が風を捉えてそよいでいる景、日常作業の一瞬をつかみきったところに感心した。(谷口道子)

64 梅雨の月手首のタトゥー動き出す     久保彩
★★手首にサソリのタトゥーを入れているのだろうか、妖艶な女性を想像する。梅雨の月を見上げていると踊りだしたくなる気持ちもわかる。(山ア篤)
★★手首のタトゥーは黒蜥蜴でしょうか?梅雨の合間の月の光に動き出してしまうなんて!タトゥーの主は寝静まっていて湿った感じの少しひんやりする神秘的な夜ですね。(真宮マミ)

8 あぢさゐのひかりに皺の手をかざす     木村オサム
★★ひらがな多用で優しく、あじさいの光の瑞々しさと皺の手の老いを感じる対比があざやか。(衛藤夏子)
★「皺の手」によって紫陽花の花盛り、生き生きさを描いている。(八王子宇保)

18 まだ消えぬ悔い蛍のかたちして     小西 瞬夏
★★悔いをかたちにしたら蛍かもしれない。説得力がある。(河本かおり)
★(稲野一美)

36 蕎麦啜る夏の木立を真向かひに     金山 桜子
★★涼しい感じを「夏の木立を真向かひ」によって映し出している(八王子宇保)
★蕎麦をすすったら、夏木立もなんだかハッキリ見えるような気がするよなぁあと共感。夏木立も蕎麦啜るも軽快でカラッとしてて爽やか。(斎藤あかね)

40 紫陽花を逆さに吊るすおまじない     桂凛火
★★ドライフラワーを作成中の、天井から吊るされた光景だが、おまじない という展開の面白さだ。(西谷剛周)
★妙技な俳味。(冨田潤)

48 雲間より光一瞬山開き       真宮マミ
★★霊山の山開きを連想した。(片岡ひろ)
★いよいよ山開き。山開きを祝うがごとく一瞬の光が雲間からでてきた。大きな自然と山開きのワクワク感がストレートに表現されていて、技術的にレベルの高い句が多い中、俳句歴の浅い私にはわかりやすい句でした。(高橋康子)

55 荒梅雨やメタセコイヤの尖りやう     山ア 篤
★★視覚的な俳句。雨に打たれているメタセコイヤの姿は、何か象徴的なものを思わせる。(金山桜子)
★鬱陶しい梅雨の雨。激しい降りが、さも、メタセコイヤも尖らせてしまっているかの表現が面白い。(こにし桃)

89 すべりひゆ母を遠野に置きしまま     小西 瞬夏
★★自身の母という存在が書けている。(久保純夫)
★お母様を置いてきた遠野とはどんなところなのだろう。「すべりひゆ」のような地味な雑草地帯なのか。取り合わせがなぜか切なさへと誘う。(知念哲庵)

12 ミステリーに飽きてしまった黒揚羽    横田 明美
★(宮武孝幸)
★黒揚羽の怪しさが、犯人に仕立て上げられ続け、嫌になっているようです。(福良ちどり)

79 父の日に磨く遺品の腕時計       横田 明美
★普段は引き出しに仕舞ってある時計。もしかしたら止まったままかもしれません。父の日に磨きながら色々な思い出が蘇りますね。(真宮マミ)
★(衛藤夏子)

82 持っている方がびちゃびちゃ水鉄砲     塩見恵介
★水鉄砲で水をかけられた方が、びちゃびちゃに濡れていると思うのだが、現実は水鉄砲を持っている方だという。注意深く観察した結果だ。(西谷剛周)
★持っている方(撃っている方)が撃たれている方よりも濡れているというところに、アクティブに遊んでいる子供が目に浮かぶ。敢えて言えば、<びちゃびちゃ>という描写が多少幼すぎるような感覚もある。(横井来季)

【1点句】

13 3秒で振られた私夏木立     斉藤あかね
★★★3秒で振られる恋を考えた。「私」だから女性から意中の彼へアタックする。素敵な夏木立の木陰で抜群のワンピースを着て、最高のシチュエーションへ相手を誘い込んでコクる。「え?君とは大事な友だちでいたいから」などという彼。認められているような、女と思われてないような、と悩むうちに彼はもう、日向へ消えている。私もぼんやり夏木立みたいに明るい夏に立ち尽くしている。へっちゃらで「3」という算用数字を使ったりする表記もあっけらかんと大胆。(塩見恵介)

32 夏草に囲まれルービックキューブ     藤田俊
★★★夏草という「世間」に囲まれ、どの色にもなれそうでなれない多くの現代人の苦悩をルービックキューブに託した一句。(木村オサム)

33 梅雨深し刀剣にみる鍛え肌     北村武衛門
★★★刀剣づくりは鍛錬によるもの。梅雨湿りのなかでも刀剣はくもらず鍛え抜かれた波形が美しい。(山ア篤)

35 かきつばた写楽の謎は解くまいぞ     冨田 潤
★★★写楽の謎・・・解くまいぞ が愉快である。(片岡ひろ)

41 人間と話さなんだ日さくらんぼ     森山みぞれ
★★★コロナ禍。実感。特別のことではなく今だからこその共感がある。(十河智)

49 五月闇マと書いた紙貼っておく     橋卯三
★★★なぜマなのか、知ればあっけない理由があるのかもしれないが、わけのわからなさにひかれた。闇。(久留島元)

60 本棚の後ろに居たり夏帽子     星野早苗
★★★不思議な夏帽子。そのものか、人か。(久保彩)

3 医師の名も術日も忘れ苔茂る     真宮マミ
★★大手術から随分経って、お世話になった医師の名すら忘れてしまった。いつどうなるかわからない余生だが、今のところ「苔」のようなものが死を覆い隠してくれている。今は日々を楽しく生きてゆこうという思いを感じました。(木村オサム)

9 万緑の胎内巡る九十九折れ     満田三椒
★★緑の深い登山。修験の山か。わかりやすく、また力強く、やや宗教的でもあって、不気味さもある。(久留島元)

11 悪名のみるみる染まる心太     久保純夫
★★俳句の句材として「ところてん」は何にでも付くので安易に流れやすい。まさに「悪名高き」ということだが、その点を逆にとらえたところが面白い。「みるみる」がのど越しを彷彿させる。「ところてん」万歳というところ。(赤松勝)

44 百万の馘首無残や牡丹百合     知念哲庵
★★百万の百合が切られてしまった光景は無残藤もチューリップもこんなふうに切られた光景をテレビで報道していた事実の描写として映像的に「無残や」と切り取られたことで迫力がでて緊張感のある表現となったと思います(桂凜火)

45 白髪のバリスタ春ストーブのログハウス   こにし桃
★★白髪という語が異空間に誘う(久保彩)

66 ジョギングの胸の高さへ梅雨蛍     星野早苗
★★蛍が見られなくなっていますが、若き日の古き良き時代の景が明るく伝わってきました。(野田清月)

30 恋愛や気狂いピエロめく蛍     夏銀河
★蛍と恋の取り合わせは常道ですが、蛍の乱舞の様子を「気違いピエロ」というゴダールの昔の映画に喩えたところがオシャレ。恋愛はいつの時代も若者にとってはヌーベルヴァーグ(新しい波)ですね。(中村葱男)

38 夏草やペダル踏み込む日焼け顔   高橋康子
★「夏草」と「日焼け」が季重なってる!とかいう批判もありそうだけれど、こういう場合は夏草の季語のパワーを優先!と思っていただいてます。なんといっても夏草という名句いっぱいの季語で自転車を漕ぐ健康さ、それが全面に伝わる多幸感!幸せ俳句にたくさん出会うと良いオーラに包まれるのではないか、と思っております。(塩見恵介)

52 壊さねば壊してならぬ血を出す蚊   橋卯三
★ややこしいが、要するに、蚊を打っただけなのか。(久留島元)

61 二日目のスープ煮詰めて梅雨の寒   片岡ひろ
★本日。7月4日の大阪は、梅雨寒でした。二日目のスープの景が暖かく広がってきました。(野田清月)

75 ぷかぷかを悩むくらげに陽が届く   塩見恵介
★くらげを愉快に詠んだ。(高橋卯三)

78 青梅や疫病漬けの百ヶ日       知念哲庵
★3月からコロナ一色の日々が続きました。見えないものに対する不安と青梅の存在感がよく響き合っていると思いました。(木村オサム)

【残念句】名句が残ってませんか?

  1 銃弾はいま放たれた蝉の昼     河本かおり
  4 金糸梅黄泉へ呼ばれてゆく母と   中島葱男
  7 イエダニを吸ひ取るといふ高性能  十河 智
 14 雑貨屋はバス停兼て里青葉    片岡ひろ
 15 夏至の日の燻製作りはモヒートと 久保彩
 17 温顔の濃く焼き付きし紫陽花雨  吉村紀代子
 19 人魚塚夏鶯が高らかに      久留島元
 20 夏近し疵の乳房が軽くなる    こにし桃
 22 一羽遅れピチョパチョ水面を来る子鴨 谷口道子
 24 リアリティの無限展開夏祓      諸葛孔明
 25 青葉木菟見えざる空に手をかざす 弓場あす華
 28 無個性じゃいけないと知る冷奴   辻田真波
 29 名残り酒あじさいも融けし夜なりき 増田暁子
 39 注射後の指圧止血に青葉光    野田清月
 42 鏡には前世で逢つたやうなわれ  横井来季
 43 湧き上がる誇りと未練と老鶯啼く  増田暁子
 46 妻の立つモネの反り橋白日傘   北村峰月
 54 薄暑光障子の切り絵又も増え   山ア 篤
 56 風薫る冷やでいただく地酒かな 高橋康子
 58 梅雨寒し人体模型の渾名とか  夏銀河
 62 雨中梔子朽ちつつ宙に香を広ぐ  岡田一実
 63 梅雨晴や各馬一斉ハイウェイ   森山みぞれ
 67 梅雨明けてトランペットで吹くエール 衛藤夏子
 68 ピーヒョロロ鳶は南風に身を任せ 赤窄 結
 69 コロナ第2波べったり歩道の捨てマスク 谷口道子
 74 青梅や兜太に頼る句ばかりで  西谷剛周
 76 青き雨茶渋を落とす母の家   赤窄 結
 77 朝日満つ峡の代田は万華鏡  満田三椒
 80 あやめ草昏き水面へ崩れゆく 福良ちどり
 81 赤松のひかり零るる青葉かな 弓場あす華
 83 万緑の全葉讃ふ地球の気   岡田一実
 84 嵯峨トロッコ列車再開今は梅雨 十河 智
 86 梅雨晴間腕立て伏せを深く深く 赤松勝
 87 夕風や初蚊膨れてとびゆけり 稲野一美
 88 七夕や螺鈿の机贈りたし    吉村紀代子

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