関西現代俳句協会

関西現代俳句協会定例句会 2019年10月27日
斑鳩吟行 法隆寺Iセンターにて句会(27名参加)

アルカイックな微笑みに 法隆寺吟行

 今年最後の台風の去った次の日jR法隆寺駅に27名が集合した。年々自然現象の異変が台風の被害を大きくして被害地の悲しみを思いやりながらの吟行会と成った。地球温暖化対策を涙で訴えた少女ブレタさんの姿が目に焼き付いている。

 自然界の異変を感じながらも折々の季節を五、七、五の言葉を紡ぐ私達。法隆寺センターに荷物を預け法隆寺の参道に向かう。参道の入り口で「松ぽっくりが独楽の形に成っているからきっと栗鼠がいるわ」の第一声に皆が形を確かめ納得する。参道の松林に天狗茸の一群が目に入る。「こんな所に茸が」一斉にカメラを向ける。天狗茸がまるで三度笠を被った旅人の様に行く先々に姿を見せて道案内をしてくれる。

 参道を抜けるとコスモス畑、桜蓼、木守柿、溝蕎麦、捨て苗さえも花を付けている。それらを見下すように火の見櫓があり嘘の様に救急車のサイレンが走り抜けた。業平道は業平の華やかな人生を思わせるように華やかだった。

 その先の継子地蔵へ向かう。お地蔵様の薄いお顔は悲哀に満ちていた。継子地蔵の悲しい歴史に皆が手を合わせた。不思議だったのは此の地の柘榴だけは精気がなく台風の影響を受けたのか実を熟す前に殆ど落ちていた。

 茸の道案内は古墳へと続く。小さな古墳は秋日を纏った草々に覆われふっくら柔らかく現れた。楡の紅葉が風に吹かれてセピア色の光を放っていた。古墳の中はすれ違うのがやっとの幅で石棺までは数歩で辿り着いた。手を合わせていると「天井から滴る水滴は線香の香りがする」この呟きに真似をして滴りを手で受けると本当に品の良い線香の香りがした。レプリカの石棺は朱色に塗られていたが当然石の色に戻っていた。

 道案内は天狗茸から兎口茸に変わった。法隆寺の西門に向かう家々は走水を巡らせていた。比叡山麓の坂本の里坊も走水を巡らせているがその厳かさを此の里の流れに感じた。

 そして夢殿に向かう。相変わらず茸の道案内は続く。家々の白壁から又海鼠壁の隙間からへらへら笑うように、参道の砂利道にもお辞儀をするように現れる。五重塔の見える参道に小さな桜が咲いていた。「冬桜ね」「いや冬桜にしては早すぎる桜の返り花よ」と会話が弾む。すると一打の鐘の音が境内に響いた。夢殿を目の前にして、「記念写真を撮りなおそう。」の声に石段に整列する。

 夢殿の救世観音像を拝顔する。端正なお顔が神々しく感無量になった。渡り廊下に赤い防火バケツがぽつんと置かれていた。

 数々の御仏の御在す斑鳩の里は生活の匂いがない静かな町並みであった。仏様は夫々の印を手に結びアルカイックな微笑みで人々、自然、そして地球を守って下さっている様なお姿であった。句会場に向かう一行の頭上には仏様の慈悲の様な鰯雲が流れていた。

 (志村宣子 記)

 法隆寺吟行俳句集

塔頭に大小のあり小鳥来る     久保 純夫
円墳と方墳の間秋桜

業平道曲れば古墳草の花      西谷 剛周
彫浅き継子地蔵や小鳥来る

天体のようで毒きのこ地に散らし  石井  冴
黄色いレモンだけが私に近付いて

手の熟柿厩戸皇子うきうき     榎本 祐子
みだらなる秋の蝶々が夢殿へ

千年の塵の尊き秋の厨子      片岡 宏子
実南天土蔵も高き大和棟

法隆寺西一丁目の石榴かな     金山 桜子
秋草の古代の墓でありにけり

晴れやかに業平道の花野かな    久保  彩
斑鳩の古墳にゆれる秋桜

天上へ風鐸秋の声をなす      蔵田ひろし
風鐸の律の調べを仰ぎをり

走り水の音ころがしてゐる榠樝の実 後藤 朝子
水滴の落つる石棺秋思かな

夢殿へ続く仙果の鬼瓦       小西  桃
通学路の継子地蔵に石榴の実

夢殿の防火バケツや秋渇      志村 宣子
法隆寺の秋思に鐘の渡りゆく

秋天下石棺の朱は渡来人      妹尾  健
埋もれて落葉の奥の大工町

堀越しに熟れし石榴の垂る場合   髙木 泰夫
ちりばめて業平道を草の花

石棺の朱色は褪せる秋桜      髙橋 卯三
楠の異形に秋の阿の顎吽の顎

田一枚二枚コスモス野となせり   髙畑美江子
夢殿の秘佛露けし昼の闇

羨道は流星の脈昼を湿る      玉記  玉
金銅の鞍は銀河へ出奔す

さはやかな藤ノ木古墳Aカップ   外山 安龍
返り花とのばす指先五重塔

秋深む業平道の赤信号       中嶋 飛鳥
藤袴寄りては影を濃くしたる

拳ほど小さな古墳秋高し      中野 庸二
火が恋し継子地蔵に佇めば

金木犀寺の厠に風往来       中村 聡一
円墳に化けてUFО秋日和

まなうらや継子地蔵の秋思かな   西谷 稔子
秋深む継子地蔵に呟きて

十月のたんぽぽ生きることえらぶ  松本ふみ子
毒菌と知りて突いてうどん食ぶ

南大門までの老松新松子      宮武 悦子
夢殿の微笑の仏こぼれ萩

南大門くぐり秋天くぐりたる    宮武 孝幸
塔見えて穭田匂う業平道

色変へぬ松よ玄妙師の逝けり    山﨑  篤
土塀伝ひに木犀の香の揺らぐ

日の差して空に一点冬雲雀     弓場あす華
陪塚の胎内に入る秋日差

柿日和路地に男の猫車       横田 明美
苔枯るる大楠の洞の襞

 (以上 27名)

■吟行の模様

▲関西現代俳句協会トップページへ