関西現代俳句協会

2019年6月30日 早苗田句会 吟行記録

 例年になく遅い梅雨入りとなったばかりの、雨こそ降っていないもののいささか雲行きの怪しい中、法隆寺駅南口に集合した。
 初顔合わせの人も多く、ぎこちなく挨拶を交わしながら、タクシーで移動される方を除いて、西谷剛周企画部長のれんげ小屋まで、久保純夫会長を先頭に歩いて行く。
 当初住宅街を歩いていたのが、いつの間にか住宅街を抜けて野道を歩きつつ、句材を探しつつゆくと、周囲を田んぼに困れた農小屋が見えてきた。
 会場への到着とほぼ時を同じくして本格的に降り出して、参加者は一斉に農小屋へなだれ込んだ。

 参加費と引き換えに短冊2枚を受け取り、締切時間が告げられる。
 予定では締切まで、全員参加で当日の料理のお手伝いをすることとなっていたが、既に「幻」の皆さんの心遣いで、テーブルに燻製料理などが準備されており、ビールも飲み放題という、呑み助には夢のような時間が流れていた。

 小屋主御自慢の石窯は農小屋の外のテラス席にしつらえられており、少し小やみになっていた雨の中、石窯の前のテーブル席では、手際よくピザがこねられ、名代の鯛の塩釜が焼かれる順番を待っていた。
 雨の中をひたすら料理に奮闘されていた「幻」の皆様には心から御礼を申し上げたい。

 宴のメインイベントは、鏡割りならぬ鯛の塩釜割である。当日の参加者32名が分散して座っている3ケ所の島でそれぞれ割られ、ますます宴会気分が高まる中、いつの間にやら手元に当日の清記が配布されてきた。
 飲み食いに明け暮れているように見えて、投句締切の時間は厳守される方々だったようである。
 折から焼けてきたピザを食べながらの選句をし、各自披講となる。自己紹介を兼ねて、当日の参加者名簿の各自の番号を名乗り、俳句に係ることになった由来などを披露しつつ、和気あいあいとした雰囲気の中、各自披講が進んでゆく。

 得点の集計も済み、西谷剛周企画部長の司会による高得点句からの合評に移る中、ますます喧騒が高まってきたと思ったのは錯覚で、雨脚の激しさに農小屋の窓の外が真っ白となるまで、本降りの雨が農小屋を打ち付けていた。
 このまま雨に流され、ノアの箱舟のように漂流しはじめるのではとの幻視にとらわれたのは、私だけでは無い筈である。
 想像を超えた大雨というハプニングはあったものの、西谷剛周企画部長の絶妙な句会進行のおかげで、参加者全員の白熱した合評を経て、農小屋も漂流せずに無事に句会は終了した。
 当日の投句は別掲の通りである。また機会があれば、季節を変えて参加したいと思わせる楽しい1日であった。

 (記録担当・蔵田ひろし)

 早苗田吟行句会 参加者出句

千年のひめみこもいる青田かな   久保 純夫
玉虫厨子を想いし青田かな

早苗田の曲りは主のおおらかさ   西谷 剛周
ぎんぎんの冷酒のうんちく聞きてより

農小屋の戸は大開き植田風     横田 明美
夢殿をかすめて来たる合歓の風

雨蛙お前も一句詠まないか     宮武 孝幸
農小屋の俳句文庫へ青田風

頬撫でる重たき風や梅雨曇り    吉田 星子
梅雨雲の驕り昂る気配あり

軽トラの梅雨の真中をかけ抜ける  和田 Y子
手作りのサラダ新鮮きゅうりほか

このピンク毒ですタニシ増殖中   桂  凛火
よしきりの賑わい農小屋早苗会

早苗田をつっきり都会行き列車   赤窄  結
警報機響く線路に梅雨の蝶

ここはもう宇宙の真中冷し酒    金山 桜子
塔いまだ見えざる小径行々子

塩鯛を割れば潮の香大南風     星野 早苗
農小屋に夏炉を焚きて待ちくれし

信号の遠き点滅植田風       外山 安龍
兜蝦田水掻き混ぜ雨を呼ぶ

半夏生の花農小屋に生けられて   川嶋 義治
合歓の花列車ゆく音届きけり

黒南風や土蜘蛛の末裔酒を盛る   中村 聰一
青葉騒五七五が整はず

子燕へ覆を開くベビーカー     蔵田ひろし
梅雨の傘片手に歳時記を片手

蝙蝠傘横顔へたどりつけぬ     小西 瞬夏
無いものはない生麦酒泡たてて

万緑の奈良に潜むか雨男      西村  操
蒲の穂に風の集まる奈良の昼

梅雨空の声集まりぬ法隆寺     久保 あや
塔五重遠くに見ゆる青田かな

燻製に縄文の香や青田風      志村 宣子
鯛に盛る塩粗々と青田風

ブルーベリーと鯛の塩釜黒光り   曾根  毅
これ飲むと青鷺みたいになれるよ

斑鳩の里にぎやかに夏の雨     樋本 和恵
かぶとえび植田の中にぐちゃぐちゃと

借景の五重の塔の荒梅雨や     榎本 祐子
荒梅雨の奥の竈火のアモーレ

遊水地二十町歩の青田風      遊田久美子
黒南風の中より軍馬駆け抜けし

疲れたる右脳を満たす早苗風    北村 峰月
豊年蝦忙し忙しと泥にゐる

塩鯛の黒こげとなる白十字     山ア  篤
俳句サミット早苗田よりの塔遥か

豊かなる斑鳩の風合歓開く     中村 純代
五月雨や短冊飾る農家小屋

立ち食いの蚊に食われたる太い脛  片岡 宏子
プチトマト声かけられてぽっと恋

ケリの声燻製の窯香り出す     衣笠 宏子
さざめきが拡がる句座に雨細く

寝違いの首伸ばすとき行々子    木 泰夫
緑陰の濃淡自ずと淡におり

捨て苗や虫魚の世界娑婆世界    橋 卯三
早苗田やかつて守姉拾い親

塩釜の塩きらめいて若葉雨     藤田 亜未
ピザ釜の上をつついと夏つばめ

幼子に合わせ夏蝶低く飛ぶ     上島 義輝
シュータワー食べつつ詠みぬ青田風

ピザ匂ふナポリの知らぬ蝸牛    西谷 稔子
夏祓祭主は主宰窯ひらく

 

■吟行句会の模様

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