関西現代俳句協会

2025年9月のエッセイ

涼やかに

辻井こうめ

    

 今春、専門学校で担任をしていた時の学生に誘われ、35年ぶりの8名のミニクラス会に参加した。

 個人情報重視の時代、級友への連絡は難しかったようだ。
 お世話をして頂いたKさんから「何線で来られますか?駅まで行きましょうか?」と親切なメールが届き「お気遣いありがとう。大丈夫よ」こんなやりとりからスタートした。

 専門部で教えるのは最初のクラス。会食をしながら当時の事を話していると一気にクラスの風景が蘇ってきた。

 そこへ少し遅れてきたSさんにみんな釘付け。
 虹色のヘアカラーにビビッドな洋服。
 何ら驚く事でもないのだけれど、いつも静かな佇まいだっただけに見事な変身に拍手。
 そのうち私の仕草や口癖等を物真似されたりで、当時の知らない自分に会えたような気がした。

 彼女たちは今もデザイン、パターン、クラスメートとインディーズで服作り等を続けていて苦労も多いけれど充実している様子を伺い頼もしく眩しく感じた。

 27歳で専門学校に入校した私はまわりより年嵩。
 熱血の3年次の担任の話をした。

 居残りをする学生に「今日はあかんよ。早く帰って」と週1回の工業パターンの研修、休日は大阪駅でファッションの定点観測をされていた事などを。

 そのうち「今何をしているのですか?」と聞かれ「絵本と俳句」と答えながらがむしゃらだったあの頃の放課後が浮かんできた。
 守衛さんの「もう、鍵掛けますよ」のひと言にあたふたと片付け、作品の遅れている数名と共有した時間を思った。

 帰り道、肥後橋から堂島川に沿って淀屋橋まで一緒に歩いた。
 桜はまだ蕾んでいる。ひんやりとした春風が心地良い。
 春の光のなかの彼女たちに佐保姫がすっとあらわれたように感じた。

    虹色の髪の佐保姫よく笑ふ   辻井こうめ

 今、香天で岡田耕治先生、久保純夫先生に御指導頂き、詩情豊かな句友、誌友の皆様に良い刺激を受け、シルバー路を歩いている。
 涼やかなこれからの旅を願いつつ。

    健気なる素直とありぬ山櫻    久保純夫 句集『定点観測』

    約束の教室点るおそくまで    岡田耕治 句集『学校』

    老いてゆくことの涼しき体かな  岡田耕治 句集『父に』

(以上)

◆「涼やかに」:辻井こうめ(つじい・こうめ)◆

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