関西現代俳句協会

2023年6月のエッセイ

あっ、ご近所にコウノトリ

石井清吾

 私の住んでいる明石市の郊外には農業用水の大きな溜池が沢山あります。昨年の11月、散歩中に近くの溜池で国の天然記念物コウノトリを見つけました。良く見かけるダイサギやアオサギより一回り大きく、白い羽に黒い風切羽根、黒い嘴のコントラストが特徴的です。溜池の浅瀬で活発に動きまわって水中の餌を食べていました。コウノトリは肉食性でドジョウ、フナ、カエル、バッタ、ミミズ、時にはヘビやネズミ等を一日500gほど食べる大食漢なのです。

 もともとコウノトリは、シベリアや中国北部から越冬のため日本に渡ってくる渡り鳥でしたが、稲作の普及とともに留鳥になり、江戸時代には日本各地で生息していました。芭蕉に江戸でこうのとり(鸛)を詠んだ句があります。

  鸛の巣も見らるる花の葉越し哉  芭蕉(「続虚栗」より)

 桜が満開の頃、繁殖のシーズンを迎えるコウノトリを詠んだものです。

 その後、明治期の銃による乱獲、戦時中の松の伐採、戦後の水田と里山の減少、農薬による水田の餌の激減等のため数が減り続け、1971年日本の野生のコウノトリは絶滅しました。しかし、最後の生育地であった兵庫県豊岡市で人工飼育が開始され、ロシアから寄贈された幼鳥の飼育と繁殖に成功。飼育数を増やした後、2005年には兵庫県立コウノトリセンターで野外への放鳥が始まりました。2007年に野外の巣塔での繁殖が成功した後は、豊岡盆地を中心に野外の個体が順調に増え、2022年には国内で300羽を越えました。

 コウノトリは1日に300km以上を移動でき、繁殖相手を見つけるまでは餌を求めて遠方に飛んでいく習性があります。生き物が減る10月~2月頃、明石周辺の溜池は補修点検のため水位を下げるので餌が捕りやすくなり100羽近いコウノトリが飛来します。私が見ていたのはその中の数羽でした。しかし春になって満々と水を湛えた溜池にもう姿は見えません。飛来はしても定着してはいないのです。コウノトリが定着するには溜池以外に1年を通して餌を確保できる生態系(水田と水路、ビオトープ等)が必要です。定着する仲間が増え、連れ添う伴侶ができて初めて、巣作りから繁殖に至ることが出来ます。(昨年、日本では8府県34の巣塔から80羽のコウノトリの巣立ちが報告されました。)

 近所の溜池の傍らに2020年に立てられた人工巣塔は、未だ空のままです。 周囲の環境・生態系が整備されて、コウノトリのカップルが巣を作る日を心待ちにしています。初夏の空へ幼鳥が巣立つのをこの目で確かめたいものです。

(以上)

◆「あっ、ご近所にコウノトリ」:石井清吾(いしい・せいご)◆

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