関西現代俳句協会

2014年6月のエッセイ

プラス・マイナスとは

日原輝子

 ここ数年、庭に異変が生じた。気象変化のせいにはできない。様様の条件が重なってのこと。この様な思いの時、同窓会へ出席した。夫夫の面影を残す、残さないに拘わらず、顔に年齢の象徴が見える。話が進むに連れ色々の思いがよぎり出す。同学年という三文字が安心感をそそり、食事・運動に加えて、生甲斐を持つ必要を今更乍ら強くしていたのだった。庭の植物は、プロと契約をするのは、剪定と消毒のみ。これらにしても常に家人が気をつけ手入れをしなければならない。消毒、水やり、花のあとの剪定、草抜きと、手がかかる。若い時はそれなりに動けたが、現在の体力は落ちている。一昨年、草抜きに11人がやって来た。“雑草は本当に強い。もう庭は嫌、マンションがよい”と言えば、“皆さん、そう言われます”との言葉が返った。

 ずっと以前のこと、肩が痛く、子供に脱衣を頼むとセーターを思い切り引っ張ったのか悲鳴をあげた。その記憶をたどれば治癒はレモンにあった。レモンと言えば、酸っぱさを思うだけで唾がわく。

 レモンの酸っぱさは、有機酸であるクエン酸にある。クレプス博士の「クエン酸サイクル理論」に依ると、クエン酸は体内に於ける乳酸の過剰発生をおさえることができ、また乳酸は、炭酸ガスと水とに分解されて、体外に排泄されるとのこと。乳酸は体内の蛋白質と結合して乳酸炭白となり疲労などをおこすという。レモンが痛みや疲れを癒やすのによい筈である。
        (「頂点」96号 豊輝子の名で「有機酸万歳」の記録あり)

 クエン酸の含有量 クエン酸2% 梅干5% 梅肉エキス30%

 私は子供の頃、小梅干をおやつの様にしていた。今思えば低酸症の胃であったのかもしれない。現在は胃の為にレモンを控えている。

 今年の庭の異常はよい方へ向いたらしい。目下、赤や黄白紫紅色など濃淡の花が目をひく。中でも消えたと思っていた鳶尾の花が濃紫で然も大きく美しい。白も清楚だが紫より控目である。

 10年程前、日本古来の大玉に咲く紫陽花を北側へ移した。やがて塀を越す様に成長した。北側の住人に、活花に切る以外はその侭にと頼まれる。花を楽しんで居ますのでとの事だった。が、他の木々もよく育ち、切らねばならなくなってしまった。切るには惜しい木もまじる。やがてその時が来た。

 木々は切られダンプカーに積みあげられ去ってしまった。枯死したのではなく勢い盛んな現役である木。私は複雑な思いである。育てた楽しさは悲しみへ、そして虚しさが加わった。植物も手を入れれば美しい花を咲かせてくれる。声が無くとも人と心が通じ合うのだ。が、雑草は強く逞しい。私の非力を更に増加させ、あざ笑うかの様にどんどん成長する。時に、なれは私にはマイナスよと呟く。

    雑草は伸びぬ縮むは我が背丈     輝子

(以上)

◆「プラス・マイナスとは」:日原輝子(ひはら てるこ)◆

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