関西現代俳句協会

2013年4月のエッセイ

私の秘密

久保 純夫

 特に用事がない限り、1日に10句を目処にして俳句を書いています。2年ほど前、1日1句を目標に始めた試みがいつの間にか、こうなってしまっているのです。この多作傾向はそもそも旅に出た時がきっかけになりました。どこかにも書きましたが、自分のアホさ加減がおもしろいので、紹介します。

 10年近く前になるのか、タイ・プーケットに行ったときのこと。観光地巡りを旅行だと思っている人だった私は、島巡りするべく、ホテルのバスの出発時刻を、のんびり待っていました。ところが、時計が故障していたせいで、気付いたときには、とっくにバスは出ていて、以後の予定が全く狂ってしまったのです。妻に叱られながらも、それならばということで、西洋人に倣って、プールサイドのデッキチェアーに寝転びながら、1日中、俳句を作っていた、という始末。しかし、その過ごし方はなんとも快い。初めのうちは本を読んでいた妻も、いつの間にか、俳句というものを書き始めたのです。

 その後はどこに旅をしても、ホテルのプールサイドや海辺、椰子の木陰にあるデッキチェアーで、毎日が俳句三昧。この試みは都会のホテルでも充分に通用します。夜にはお互いの俳句を言い合い、2人句会を愉しんでいた、という訳です。以前どなただったか、「淋しい句会ね」とかなんとか宣っていらっしゃったが、俳句形式のふところの深さをご存知ないな、と思ったりしたものです。

 旅のお供として、自分で「季語集」を作ってみました。さまざまな歳時記から季語のみを取り出し、季節ごとにA4の1枚にまとめ、計4枚になりました。私は今、現実の季節に関わりなく、始まりの「春」から俳句を作っています。どんなに作りにくい、苦手な語であっても、善し悪しはかまわず、とにかく1句にしています。これはかなりの技術が必要になってきます。というか、その語に鍛えられると言ったほうがいいかもしれません。

 後にはそれに加えて、「利用できそうな抽象語一覧」、「俳句用語集」などと名付けて整理し、もう1枚をプラスしました。それには『分類語彙表』(国立国語研究所)が大いに役立つことになりました。初版の発行が昭和39年。自分のは48年15版だから、大学を卒業してまもなく、古本屋で買っていたのでしょう。1400に斜線が入り、1800円になっています。本棚の隅で埃を被っていたものが、時を経て、宝物になったということでしょう。

 これら秘密の語彙集は今のところ、私の弟子?と好きな人?にしかあげていません。もし手に入れたいならば、そのどちらかになってください。(冗談です。)当分は門外不出といたします。それでは、さようなら。

(以上)

◆「私の秘密」(わたしのひみつ):久保 純夫(くぼ すみお)◆