関西現代俳句協会

2012年8月のエッセイ

現代俳句のであい

小松 賢治

 1986年に奈良の井筒安男先生(現代俳句協会員)の俳句にであったのが始まりでした。

   くつがえり故郷の沼となるミルク      安男

 当初理解でき無かったこの句のお話をお聞きし、望郷感や生活句の中にある現代批評を知り、また、新鮮さも感じ、主宰されていた「水焔句会」に参加させていただくようになりました。入会当初の句。

   一会の者たち散るや夜空に吊革なし      安男
   厚切りの日曜パン焼く朝の素顔       賢治

 その後の先生の句が実感として伝わり、細やかさと同時に、生への力強さも感じられるようになり、色々な俳句の話もお聞きしました。高校時代に「花影陣」の永田竹の春先生に認められた句。

   手のひらのおもみほのぼの初苺       安男
   初蝶のよぎる白さや麦畑          安男

 ‘58年の大学時代に関西俳句連盟を開催の後、堀葦男先生に師事され、添削を受けられた句。

   街の灯にぼくが華麗に散逸す        安男
   (元 散逸したぼくに華麗に水の灯散る)

 ‘62年に十七音詩同人となられ、林田紀音夫先生にも影響を受られた句。

   傘いっぽんとはろばろなめくじの冷たさ曳き 安男

 また、結婚に際して宮崎西米良へ行かれた折りの句が、葦男先生や金子兜太先生に絶賛される。

   ダム現場バスゆりかごとなり揺れる     安男
   指から先の少女の銀河たどりえず      安男

 「一句が勝負だ」とあまり外部に発信しなかった安男先生でしたが、‘91年に久々に海程大阪句会に出席され、葦男先生や紀音夫先生や直先生にお会いされ喜んでおられました。

 ‘92年2月の水焔句会にお招きされた稲葉直先生に初めてお目にかかりました。

   寝がえれず沼にいっぱい水在って       直

 理屈では理解できない、生きることへの不安定感が読み手にスーッと入ってくる。日常的な言葉を用いているが、内容は非常に深くて重い。こんな句もあるのかと驚きました。

 また、この句会で、私の句が直先生の特選に選ばれ、直筆の色紙をいただきました。

   コンクリートこなごなに一族で去る      賢治
   顔洗う水きくきくときくきくと        直

 そして、‘92年の第8回海程賞候補に選ばれ、第5位に入選されました。

   雪虫ばかりの世が来むクレーンも滅び    安男
   赤い夏月仰臥はとても怖いかたち      安男
   
(三橋敏雄特選句)

 ‘93年3月に葦男先生が亡くなられて大きなショックを受けられていましたが、8月に亡くなられるまで宮崎米良仰房庵で作句を続けられるなど、57年の「本物」の俳句人生でした。

   雨しずく蜩しずくくれてゆく        安男
   水音にひと日呑まるるこそ故郷       安男

 その後、直先生に引合わせていただいていたご縁で、「未完現実句会」にお世話になりました。

   梅干しの肉ぼろぼろに免震地帯       賢治
   億光年子の指先をともしおり        賢治

 安男先生や直先生は、桑原武雄の第二芸術論に対抗して、常に伝統俳句を乗越えるように努力されていました。私も師の遺志を継いで、「心を天に遊ばせて」「取り合わせのおもしろさ」「現代批評や都会批評があり」「現実感」「斬新な句」「破格の俳句」を目指して、未完現実同人や現代俳句協会員の皆様方の俳句からも色々と示唆も受けながら、自己の俳句が確立できればと思っています。

(以上)

◆「現代俳句のであい」(げんだいはいくのであい):

小松 賢治(こまつ けんじ)◆