関西現代俳句協会

2012年7月のエッセイ

関西俳誌連盟 平成24年度春の旅吟

安藤喜久女

 5月16日〜17日、熊野古道めぐり・那智勝浦と串本への一泊旅行が行われた。

 好天に恵まれ、梅田8時出発。参加者19名。阪和道をバスはひた走る。

 紀州木の国、山々は折り重なり新緑に光り輝いていた。手作りの草餅が振る舞われ、車中は喜々とした雰囲気、熊野古道へ近づきつゝあった。突然バスが徐行を始めた。車外を見ると熊野川、はたまた音無川か、昨年9月の紀伊半島大水害の被害も生々しく、道路及び護岸工事の様子が目に入った。周辺の山々は各所で、山津波による土石流の流れ落ちた跡が残り、そこだけが山肌もあらわに、新緑があざやかな対比を見せて無残な感じであった。

   万緑に大崩落の太刀の痕      辻本 冷湖

   復興の遅々と中辺路出水跡     久保 達也

   新樹光連山雲の影走る       井坂ナツヱ

 かっての熊野詣のメインルート中辺路を歩けば、予想をはるかに越す山路、牛馬童子像、野中の一本杉などが見どころ、熊野本宮大社への大門坂は、杉並木に囲まれた石段の古道が残されており、世界文化遺産に登録されるだけの保存がなされていた。

   市女笠借りて中辺路風薫る     片峯 渓舟

   風薫る滝尻王子親子句碑      久保 達也

   禁制の女人解かれて夏帽子     安藤喜久女

 いよいよ熊野本宮大社へ。

   磴百段卒寿の汗を流しけり     坂口  悌

   本宮へ百段の磴薄暑光       米田 好子

   神杉や大社聖地の風薫る      釜田 洋子

   招魂の木に寄りそいし夏の空    辻 ますみ

   囀りを少し待たせて鈴を振る    寺西けんじ

   奉納絵馬鳴らし薫風通り道     出口 民子

   巫女の拭く扉の艶や夏きざす    山畑 勝二

 すっかり足腰の疲れた身体を、ゆっくりと温泉につかるべく、勝浦温泉ホテル浦島泊りとなった。

   玄関へ舟横着ける島の夏      鈴木 龍生

   忘帰洞を覗いて去りし岩つばめ   中田  梵

 海の幸山の幸の盛られた夕食をお腹一杯頂く幸せ、飲む人はもっと幸せ。長い廊下を迷いつゝ句会場へ向かう。句が出揃い、互選が始まった。一日の成果を問う緊張感が漂う中にも和やかな笑顔、互いに知った同志である。

 翌日は那智大社、青岸渡寺、那智の滝見物である。那智大社への石段は昨日の三倍程もあったろうか。皆、元気な方ばかり。普段の運動不足が祟りへばりぎみの私でした。

   那智の瀧深呼吸して近うせり    三宅 岳童

   貸杖の先すり減りし磴薄暑     久保 達也

   夜叉住みて今だ眠らず那智の滝   志々見久美子

   橋杭岩いま干潮の驟雨の景     辻本 冷湖

 旅吟の翌々日が金環日蝕で、潮岬に集まった人々をテレビで見ながら、全くひと気の無い本州最南端の潮岬の白亜の灯台、穏やかな枯木灘を思い出していた。

(以上)

◆「関西俳誌連盟 平成24年度春の旅吟」(かんさいはいしれんめい へいせいにじゅうよねんどはるのりょぎん):

安藤 喜久女(あんどう きくじょ)◆