関西現代俳句協会

2011年2月のエッセイ

  花粉症

小豆澤裕子

 二月になるとそろそろ杉花粉の飛散量が増え始めます。この飛散量は前年の夏の気温に大きく左右されるのですが、今年は昨年の夏の暑さが尋常ではなかったため、かなりの量に達すると予想する専門家もいます。毎年欠かさず発症するという方には憂鬱な春となりそうです。

 近頃、「花粉症」が春の季語として認められ始めましたが、よく考えてみると杉の花粉のあとにヒノキの花粉、続いてカモガヤの花粉、秋にはブタクサの花粉。イネ科やイチョウ科の植物の花粉は厳寒期以外はほぼ通年飛んで花粉症を発症させています。日本では50種類以上の花粉症の原因植物が報告されています。患者さんの中にも1年中ずっと症状が出ている人も増えてきました。となると春の季語としての定着が難しくなってくるかもしれません。

 紀元前のローマ帝国や中国の文献には花粉症を思わせる記述があり、記録として残っているのは16世紀のイタリアのものが始めての報告。また、19世紀の初めにイギリスで枯草熱が報告され、後に枯草熱の原因が花粉であることが証明され、花粉症(Pollinosis)と言う病名が誕生しました。

 しかし、日本では花粉症の歴史は浅く、最初に確認されたのは戦後に進駐軍が持ち込んだといわれているブタクサの花粉によるもので、1961年のことでした。ブタクサの花粉と言うことは、当時は花粉症といえば秋の症状だったのですね。

 その後、戦後の植林事業により杉の木が増え、1980年代以降はスギ花粉が主流となり、現在のように春に多い症状となってゆきました。花粉症が増えた原因としては、単に植林による杉の木の増加ばかりではなく、大気汚染や食文化の変化など語り出すと止まらないような背景がありますが、ここでは止めておきましょう。

 しかし、それ以前の日本には花粉症は無かったのか。日本にだけ無かった筈はない。 風邪の初期症状に似た症状を示す花粉症ですから、例えば「春の風邪」として読まれた句の中に花粉症が潜んでいても不思議はありません。

   病にも色あらば黄や春の風邪     虚子

 この句は花粉症の句に違いないと密かに思っている次第です。

 気楽なことを書きましたが、これは私自身がまだ花粉症を体験したことが無い為で、発症者にとっては並大抵の苦労ではないはずです。

 花粉症になるアレルギーを持った人が、身体の中で作られていく花粉に対抗するための抗体の量が一定の量以上になったとき、初めて花粉症の症状が現れるのです。

 ですから花粉症はある日突然発症します。このエッセイが掲載されるころには私も痒い目を擦っているかもしれません。今や日本人の5人に1人が花粉症発症者だと言われています。皆様も野や山に吟行に出掛けられる時は花粉にご用心ください。

(以上)

◆ 「花粉症」(かふんしょう) : 小豆澤裕子 (あずきざわ ゆうこ) ◆