関西現代俳句協会

2010年10月のエッセイ

ひとりの句友へ

出口 善子

 今、テレビで人気のクイズ番組で「先進11ヶ国の内9ヶ国以上に当てはまるものを答えなさい」という出題があった。アバウトな括り方だが、娯楽番組なので気楽に見ていると、まあまあインテリなタレント回答者達は、沢山の項目の中から、これも当てはまるかと「死刑」の項目を選んだ。ところが、それはドボン!! 現在「死刑」制度を採用し、かつ実行している国は、先進11ヶ国の中では日本とアメリカだけなのだそうだ。

 大道寺将司さんが私たちの俳句会「六曜」に入会してからというもの、私だけでなく 「六曜」俳句会の仲間たちは、みんな「死刑」という言葉に敏感になっている。まさか、とは思うものの執行された死刑囚の名前が新聞などに掲載されると厭な気分になる。彼は思想犯で、一度は超法規的措置によって開放されるチャンスがあったにも関わらず自ら拒んで拘置所に留まったという、今日では信じ難いほどの確信犯だ。

 最近、女性の法務大臣が二人を死刑に処した。執行には自らも立ち会ったという。また、近年の先例に従い、氏名と犯罪事実、執行した拘置所を公表した。その後、死刑場を一般公開した。場所は東京拘置所。

 そこは、大道寺将司さんの住所となっているところである。

 彼は、私たちの会に参加するまでに、既に句集を二冊も出版していたベテランの俳人であった。

 第一句集は『友へ』。この句集は、文学学校時代のテュウーターで、今も私の文章の先生である詩人の倉橋健一さんから貰った。第二句集は『鴉の目』という。内容は第一句集よりかなり穏やかになっており、その変化を鑑賞文にしたこともある。 彼の人柄、思想や挙措に共鳴する支援団体があるらしく、「きたこぶし」という冊子まで出版されている。 そんな彼が、私たちの俳句仲間になった経緯は、最初は倉橋先生の紹介で、それを仲介した人があったのだと思う。覚えているのは「本人の希望なら喜んで参加して貰うが、支援者が勧めるのなら断る」と答えたことと「本人は現金をもっていないので、支援者が出す」というので「会費は要らない」と言ったことだ。難しい思想は私には解らないが、俳句を愛好し、それに託して自己表現を試みる人はすべて私たちの仲間だ。句友である。

 その彼が、今、多発生骨髄腫を病んでいるという。

   解けやすき病衣の紐や冴え返る          将司

 充分なケアをして貰えているだろうか。いつも十句以上は必ず届くのだが、闘病に苦しい中から「六曜」五週年記念号のために、敢えて二句もよこしてくれた。

   梅雨じめり薬臭部屋に籠めにけり         将司

   同病の士より励まし糸蜻蛉              〃  

 といっても実際上の手続きとしては、作家の太田昌国さんが獄中から作品を受け取って「六曜」に繋いでくださっているのだが。「六曜」の俳句仲間は全員、彼の一日も早い快癒を、ほんとうに心の底から祈っている。

(以上)

◆「ひとりの句友へ」 (ひとりのくゆうへ) : 出口 善子 (でぐち よしこ)◆