関西現代俳句協会

2006年9月のエッセイ

「こうのとりの贈物」  

          森田智子 

 昨年の9月24日、樫の同人13名が5周年記念の総会で豊岡市に集まった。当日、豊岡ではコウノトリの郷公園に於いて、人工飼育されてきたこうのとりを、自然に返すという世界でも初めての放鳥が行われた。秋篠宮ご夫妻が臨席され、その日放鳥の5羽の内の最初の1羽がお二人によって放たれた。関係者の心配をよそに5羽のすべてが見事に青空に飛翔した。5周年の我らの頭上に舞う5羽のこうのとり。祝福されているような思いがした。放鳥されたこうのとりは無事に冬を越したそうである。発信機が付けられており、中の1羽は京都、福井、大阪、神戸と県外の350キロを飛んで戻ったことも報道された。

 今年の歌会始に於いて、秋篠宮ご夫妻は揃ってこうのとりを詠まれていた。ヨーロッパでは赤ん坊を運んでくる鳥とされるこうのとりの贈物のように、その後の紀子様の御懐妊が報じられた。

 樫の我々にも、こうのとりは、贈物を運んできてくれた。赤ん坊ではなくて青年。今年2月、若い男性2人が句会にやってきたのである。2人共これから俳句を始めるという全くの新人。同じように祖父が俳句をしていたとか。1人は25歳で、もう1人は31歳。当日2人とも、10句出句し、感性の良い句があってそこそこ選に入っていた。25歳の彼は、残念ながら、その時きりであったが、「樫」の読者なので、何時の日かまた俳句と縁の生まれることを願いたい。もう1人の31歳の彼は、その後も、月2回の句会出席を欠かさない。句会のあとの酒席にも付き合っている。午後からの句会の前に、午前中に吟行をしているというと、吟行も勉強すると参加してくる。

 句会に来だした頃に丁度、「俳句朝日」で10代〜30代の作家特集の企画があり、それに参加した。「若手500人の句」は、同誌の8月号に240人、9月号に260人の発表があり、8月号に彼の次の3句が掲載されている。彼の名前は三木基史という。

   夏空に一人ジャングルジムの上    基史

   雀の巣初めて食べたコッペパン    基史

   南風を呼ぶ象の鼻高々と        基史

  同世代の人が大勢いて、その人達がどんな俳句を作っているか興味深いと言い、9月号も買ってきて読んでいると言う。思いがけない若手俳人の登場に一同、刺激を受けている。

 一般的に言って、若手俳人たちは、今後、恋愛、結婚、転勤といった環境の変化に直面する。そのとき、「なぜ俳句なのか」に向き合って欲しい。

 次は最新作である。

   今日の月きっとルパンに盗まれる   基史

   天秤に掛ける西瓜と赤ん坊       智子

                                           以上

(本文及び俳句の表現で、ふりがな表示が括弧書きになっているのは、インターネット・システムの制約のためです。ご了解ください・・・事務局)