連載)仲寒蟬「患者と医者で同病相憐れむ」

連載 仲寒蟬
3. 患者と医者で同病相憐れむ
連載の最後は私の普段の診察風景を少しお見せしようと思う。癌について知りたい人は多かろうが癌患者の治療には原則携わっていないのでやめとく。
私は今年6月で69歳となった。「アラ古稀」である。この歳になると色々と身体の不調が出てくる。いま定期的に飲んでいる薬はコレステロールを低下させる薬、尿酸を低下させる薬、麻薬に近い鎮痛薬、CKD(慢性腎臓病)の薬、それと緑内障の目薬2種類である。
診察風景などと言ったが要は患者さんと病気の話で盛り上がる(この言い方は変だが)のである。私の患者さんはほとんどが糖尿病を持った人だが、それ以外にも腰が痛かったり膝が痛かったり色々な病気を抱えている。それが私の持っている病気と重なる時、大いに共感できるのである。
いちばん多いのは脊柱管狭窄症、頸部と腰部とあるが私は両方経験済みで、最近は腰部脊柱管狭窄症のためにある日突然動けなくなり、半年ほど杖生活を余儀なくされた。整形外科の主治医と手術はどういう場合にするのか、自然経過はどうなるのかなど話したので、そういう知識に自分の経験を加えて患者さんに話すのである。不思議なもので患者さんは糖尿病以外の病気についても私に相談してくる。専門家じゃないから何々科へ行ってくれというのは容易いがそれでは気の毒だからわかる範囲で相談に乗る。どうも整形外科へ行っても向こうは忙しくてなかなか話を聞いてくれないらしい。私の方が話しやすいということでこちらに色々と言ってくるのだ。
私の持病のうちいちばん寿命に関係するのは慢性腎臓病(CKD)だろう。その原因はよく分からない。今のところ糖尿病はないし血圧も良好、煙草も吸わない。尿酸が高かった(ここ10年以上は薬を飲んでいて数値はいい)ことが唯一考えられる要因だ。人生の最後に透析しますか?どうしますか?という話をしなければならない患者さんが最近増えている。自分はそうなる前に手を打っておこうと去年から薬を飲み始めた。これはもともと糖尿病の薬なのだが最近になって糖尿病のないCKDに対しても使えるようになった。ただ尿がたくさん出るので、そうでなくとも前立腺肥大のためにトイレへ行く回数が多いところ、この薬を開始してから夜間に2-3回は尿意で起きる。
前立腺と言えば、もう10年くらい前になるか、健診の時PSAという前立腺がんの時に上昇する血液内の成分が高くて精密検査となり、最終的に生検をした。これは嫌なもので脊椎麻酔下とはいえ股を広げて肛門と尿道の中間に10発も太い針を打ち込まれるのだ。何とも言えない衝撃、術後しばらく尿が真っ赤になる気持ち悪さ。結果は癌ではなくてよかったのだが。これまで大きな手術をしたことのない私が麻酔の話などで患者さんと盛り上がれるのはこの時の経験のお蔭である。
私の持病のうち今後いちばんQOL(生活の質)を落とす可能性があるのは緑内障。これまた閉塞隅角でもなく(これは手術の対象)眼圧などむしろ低いのに何が原因なのかはっきりしない。眼科医によれば近視の度がひどいせいだという。白内障の手術は40歳の頃左、60歳のころ右と両方済ませたが45歳頃から目の見え方が悪くなり視野検査で下1/4くらい視野欠損があると判明した。以来目薬を2種類、毎日1-2回点眼しているが視野の狭窄は徐々に進行している。車の運転は明るいと大丈夫、しかし夜は恐い。トンネルでは何度か左のタイヤを側壁にこすった。次の免許更新、認知症の検査は問題なかろうが視力は通るかどうか微妙である。ただ患者さんもよく訴えるけれど長野県のような田舎で車に乗れないとかなり不便である。通勤にも支障をきたす。妻の車に乗せてもらうしかないが向こうの都合に合わせないといけないし、頭下げるのも癪に障る。そのうち少なくとも左は失明するだろうが、そうなるときれいな景色の場所や好きな美術展へ行っても楽しくない。
医者は患者に元気をあげる仕事だから自身が元気でなければならない。そのためにはできれば健康な方がいい。若い頃から大きな病気をしてこなかった私はずっとそう思っていた。しかし歳を取ってあちこちガタがきて、そうすると患者さんの病気に対して共感できるようになり、患者さんとの話題も増えてくるのに気付いた。それも悪くはないなと思う今日この頃である。
薬あれこれいつまでも死ねぬ春 仲 寒蟬
仲 寒蟬(なか かんせん)
1996年、「港」俳句会入会。
2004年、第1句集『海市郵便』、山室静佐久文化賞受賞。
2005年、第50回角川俳句賞受賞。
2014年、第2句集『巨石文明』、第65回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
2023年、第3句集『全山落葉』。
現在「牧」「平(ふらつと)」代表、「群青」同人。


