関西現代俳句協会

会員の著作(2022年事務局受贈分)

  句集

『多作多捨』

北村峰月

文學の森 2022年6月9日発行



 マスクして福耳ふたつ繋ぎたる

 句集掲載句は、二〇〇五年より十一年間で作句した三万八千句から厳選。自然に馴染む素質は、幼き日の父との交わりが原点。六十歳から取組んだ俳句に「伝統俳句の型」を選択。この型に五感で捉えた素材を独自の現代風俳諧味で表現し、読者に沁みる句を成している。

中村光影子・・・・・「帯文」より


 父は植物博士だったかと思うことがある。それは貧しきゆえに博学であったのか。
 少年は食べられるものなら何でも食べた。虎杖や酸葉、野苺、木苺、郁子(むベ)通草(あけび)、山ぶどう、桑の実などは誰でも食べた事があると思う。青臭いだけのものであるが、茅花の若芽も食べた。ぶどうの若蔓、犬槙の実、野ぱらの新芽、すべりひゆの若茎、麦のガム、ピンクのかたばみの花枝、岩梨の実、ぐみ、「さっきの耳だれ」は蜂の一種が葉に卵を産み葉が変質したもので食べられた。少し酸っぱくてコリコリとして、たい して美味でもなかった。

北村峰月・・・・・「あとがき――再び父のことなど」より


○帯「自選十句」より

 走る野火時をり躊躇してをりぬ

 春の夜や妻に繋がる糸電話

 花疲れしてなほ花を振り返る

 涅槃図に猫と私の漏れしこと

 石蹴りの丸描いてゆく暖かし

 折鶴のすべて鋭角原爆忌

 咳をして問うても呉るる妻のゐて

 冬帽子妻の帽子に被せ置く

 枯葦のすぐ風離すいくぢなし

 メモといふ命令書もて年の市

 悴めどいま記さねば忘るる句

○発行所

 文學の森

 〒169-0075
 東京都新宿区高田馬場2-1-2 田島ビル8階
 電話 03-5292-9188

 (定価 2,100円+税)

◆句集『多作多捨』:北村峰月(きたむら・ほうげつ)◆

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