関西現代俳句協会

会員の著作(2018年事務局受贈分)

  句集

『櫛買ひに』

渡邉美保

俳句アトラス 2018年12月24日発行



 けむり茸踏んで花野のど真ん中

 渡邉美保さんが切り取った風物、それぞれに息を鎮めて立ち会うと、生きることのかなしみは生きることのよろこびであると思えてくる。
 書くほどに加わってくる自在さもまた、同時代を生きる私たちの動機になるにちがいない。

岡田耕治・・・・・栞文より

 

 「あの……、俳壇賞に決まりました」
 ごく普通の表情、ごく普通の口調でそう告げられた。
 平成二十六年秋のことであった。彼女、渡邉美保さんが本阿弥書店の「俳壇賞」に応募していたことさえも知らなかったから驚いた。
 その第二十九回俳壇賞受賞からすでに四年が経つ。
 美保さんはこの賞への応募は初めてであったが、そこに至るまでに充分な句歴を積んだ人であった。だからこの時を逃さずに、作品をまとめて世に問うべきではないかと私は思っていた。
 ここへきて、自身でも踏ん切りがついたようで、この度、やっと、本当にやっと句集が出ることになった。

ふけとしこ・・・・・「序」より

 

 いつ頃からか性格や行動を理解しやすい人に対して「わかりやすい」という表現がされるようになった。その伝でいくと渡邉美保さんは「わかりにくい」人である。
 と言っても美保さんの作品が難解ということではない。むしろ、集中の作品はおしなべて平易で穏やか。

内田美紗・・・・・「跋~乱反射」より


 

 季節に向き合い、自然の中に身を置き、草花や虫に心を寄せての言葉さがし。世界は俄然拡がりました。自分のささやかな発見を句にできたときのささやかな充足。句会に臨むときの緊張感。俳句を通して多くのことを教えられたり励まされたりの先輩や友人との交流。そんなことが楽しくて、十八年間、俳句を続けてきたのではないかと思います。
 平凡な日常生活を繰り返す日々。その残滓のような句の数々、何ほどのものであろうか。そう思いつつも、この心許ない句稿を纏めてみようと、句集を編むことにしました。

渡邉美保・・・・・「あとがき」より



○帯「収録作品より」

 土に釘つきさす遊び桃の花

 着ぶくれて打ち解けられずゐるふたり

 みどりさすアンモナイトの眠る壁

 薪積む十一月の明るさに

 すかんぽの中のすつぱき空気かな

 花冷えの手に渡さるる特急券

 うろこ雲廃船にある水たまり

 龍淵に潜む卵の特売日

 烏瓜灯しかの世へ櫛買ひに

 絵屏風の裏にふくろふ飼ひ馴らす

 海鳴りや布団の中にある昔

 秋出水鴨横向きに流さるる

 

○発行所

 株式会社 俳句アトラス

 〒167-0042
 東京都杉並区西荻北4-14-3-204
 電話 03-3397-3251

 (本体 2,315円+税)

◆句集『櫛買ひに』: 渡邉美保(わたなべ・みほ)◆

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