関西現代俳句協会

会員の著作(2017年事務局受贈分)

  句集

『なまけもののつぶやきII』

後藤博幸・俳句

トミオ・オーヴァ・版画

 2017年3月発行



 隠れ家、それは男にとって歳とは関係のない憧れのようなものかもしれない。盛岡に一年ほど遊んでいた頃、どうにも気になる店があった。夜の賑わいからちょっと離れ半メートルほどの路地の突き当たり、黒い壁に提灯のような看板のある店。ある夜思い切ってとび込むとママひとりのカウンターだけの雰囲気のあるバー。毎晩通う内に、奥にある開かずの扉が気になってきた。他に客のいないある晩、そのドアーの奥から耳慣れない音が。ママにドアーを開けていいかと言うと、許すと言う。ドアーの向こうは暗い小部屋、そこにひとりの男が大工仕事をしていた。目が合ってにやりと男は笑っていた。盛岡の大好きな遊び仲間画家の大場さんではないか。廃材を集めてきてはオブジェのような部屋を造っているのだ。その晩から、二人の隠れ家に。仲間が徐々に増え盛岡の酒飲み仲間の隠れ家に。いまでも盛岡に行けば必ずこの部屋で好きな食べ物と酒を持ち寄り、大場さんのギターと唄に時間を忘れる。

  ギター弾くしばれる闇を深く弾く

隠れ家の似合うトミオ・オーヴァである。

後藤博幸・・・・・「隠れ家」


○後藤博幸自選15句

 飯蛸の肩の力をぬいてをり

 夜桜に犬家出してしまいけり 

 俗名はへのへのもへじ捨案山子

 涅槃図の猫の謎々謎でいい 

 道化師の道化のあとの月朧

 春菊の苦味はるかな反抗期

 落葉掃く心鎮めるために掃く

 一切を春野に放ち木偶の坊

 吾もまた荒凡夫なり一茶の忌

 桜鯛来世はやはり桜鯛

 仙人になれるものなら桃の花

 夢を見るためにひたすら繭となる

 とはいへど高倉健と桜貝

 ギター弾くしばれる闇を深く弾く

 なめくじやたどり着けない明日がある 


○発行

 私家版

 (非売品)

◆句集『なまけもののつぶやきII』: 後藤博幸(ごとう・ひろゆき)
トミオ・オーヴァ(とみお・おーば)

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