関西現代俳句協会

会員の著作(2016年事務局受贈分)

  句集

『ラストシーン』

嵯峨根鈴子

邑書林 2016年4月20日発行



 嵯峨根鈴子句集『ラストシーン』には、俳句と川柳のどちらにも読める、どちらから読んでも面白いという句が少なからず収録されている。ことに後半増えていくようだ。<鉄漿(かね)つけし公達の首ひこばゆる><玉葱のふらついてゐるセンターライン><ガム噛んでゐるのが人柱らしき>などは、川柳句集に収録されていたとしてもそれなりに受容されうるのではないか。
 もっとも俳句の句会で、これは川柳だと言われれば大体否定的な評価ということになってしまうので、急ぎ付け足さなければならないが、これはどちらのジャンルが上といった序列を全く意味しないし、両者の形式を作者が使い間違えているということでもない(嵯峨根鈴子は俳歴を見る限り、川柳に興味を示した形跡はない)。そうではなく、「俳句」という集合と「川柳」という集合の重なる領域を嵯峨根鈴子の句は主な舞台として書かれているということである。単に機知的でドライな作風の俳句というだけのことではない。そしてこのことは、おそらく嵯峨根鈴子の俳句を考える上で外すことのできない足がかりとなる。

関 悦史・・・・・「狐の言語」より



 鈴子さんは、筆の毛先が少し欠損しているものを使用しているのではないかと思わせるような、独特なハネを持つ書体で書をたしなみ、また絵も描く。それらは上手下手からは無縁の<嵯峨根鈴子>によってのみ実現可と云うべき色合いと筆さばきである。しいて言うなら濁り絵具的な線の太さと濃さがある。俳句に於いても、その存在論的な色合いで具象的表現をもって結実したとき、佳句が生まれているように思う。

もてきまり・・・・・「脱皮しつづける鈴子さん」より



 第二句集『ファウルボール』のあとは、機嫌よく道草を食いながら俳句の崖っぷちはどのあたりかと、遊びほうけていたら、野壺に落ちたというタイミングで、病を得た。のっペりした我が人生の最大イベントの幕開けだった。
 このピンチに俳句はどれほど役に立ってくれるかと期待していたのだが、期待は外れた。俳句は隙あらば私から逃げよう逃げようとした。どんなにしっかりと握りしめているつもりでも、ちょっと油断すればすぐに何処かへ転がって行ってしまう。だから私はいつも、俳句に爪を立てるようにしてしがみついているしかなかった。今、辛うじて俳句を書いていられるのは私の強欲のせいである。

嵯峨根鈴子・・・・・「あとがき」より

○発行所

 邑書林

 〒661-0033
 兵庫県尼崎市南武庫之荘3-32-1-201
 電話06-6423-7819

 (定価 2,500円+税)

◆句集『ラストシーン』: 嵯峨根鈴子(さがね・すずこ)◆

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