関西現代俳句協会

会員の著作(2015年事務局受贈分)

  句集

『薄紅子豚』

谷口道子

海程新社 2015年6月1日発行



 先に、谷口さんのことをリケジョと記したが、意識してかどうかは分からないが、そう思わせる作品の一つに、初期の、

  人工衛星冬の星座に至近の軌      土佐湾

がある。人工衛星が、星座の至近距離の辺りを軌道として飛ぶ――などとは、科学者の眼が捉えた直観にほかならないと思う。蛇足ながら、京大卒業後得た文部教官としての京都大学水産科(舞鶴市)を辞して、夫君のいる高知県に移住してのこの句は、連日厚い雪雲の垂れ込める日本海側の舞鶴から、南国土佐に移り住んでの環境の変化、からりと晴れ上がり、澄んだ冬の夜空を見上げたからこそ得られた作品に違いなかろう。(以下、「小見出し」の下の地名=順に土佐湾・室戸岬・仙台・尾道・伏見は、夫君と過ごした、それぞれの作品の生まれた土地・おおよその年代の手がかりになると思われるので、参考までに掲句の下に付記する。)

  

  真空管なり真夜中の満月         土佐湾
  電飾コードの汚れ重ねつ木々瞑る     仙台
  斜張橋雪の石鎚山(いしづち )が良く見える      尾道
  日雷私抗癌ウイルス培養中        伏見

武田伸一・・・・・「知性と行動力の軌跡」より


 俳句を始めたのは一九八八年頃、学位論文の作業が一段落ついたときでした。学位論文にはレフリー付きの学会論文を5編という条件が付いており、2名のレフリーからの厳しく、鋭い指摘に何回も書き直しを迫られました。家事時間節約のため、当時出始めの食器洗浄機や電子レンジを買い、夫と娘二人に家事分担をお願いし、一家総がかり、約6年間を要する論文執筆でした。
 この論文執筆一辺倒の生活から抜け出すべく、俳句をやってみようと思いたち、『兜太の現代俳句塾』(金子兜太著主婦の友社発行)を見つけ、これで独学を始めました。
 ある日、テレビ番組で当の金子先生がお元気に主宰を務めておられるの拝見しました。びっくりすると同時にうれしくなり、早速、先生に「金子先生の俳句を学びたいこと。そのための方法について」問い合わせをしました。すぐさま直筆のお手紙をいただき、高知市在住の海程同人・村田清先生と「海程」を紹介くださったのでした。

谷口道子・・・・・「あとがき」より


○発行所

 海程新社

◆句集『薄紅子豚』: 谷口道子(たにぐち・みちこ)◆

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