関西現代俳句協会

会員の著作(2014年事務局受贈分)

  句集

『草原の雲 -不自由な言葉の自由―

谷川すみれ

香天叢書 2014年12月7日発行



私が俳人(俳句)を判断する寄す処のひとつとして、その人が抽象語を機能させているかどうか、ということがある。つまり抽象を具体として書く力があるのか、を問う。いまひとつは見えないものを視ようとする姿勢の有無である。そこを書く技術があれば申し分ない。ただ、これは簡単なことではない。谷川すみれさんは鈴木六林男を師として選んでから、そのふたつを真摯に追い求めてきたようにみえる。この努力は近年の作品に結実しているようだ。「今生の色を拒みし氷柱かな」「手の上にのせれば光霜柱」ここには抽象と具体が自ずから融合し、精神と身体が重なっている姿がある。

久保純夫・・・・・「帯文」より


 一句がどれだけ深く、また強く人間というものを視つめているか。それは、言葉とのかかわりの深さ、強さとして現れる、谷川すみれはそのような思いをもって自らの俳句を鍛えてきた。

  病む人の夏柑をむく力かな

 爪をたてて夏柑を剥く、しかもそれが「病む人」の「力」であるという書き方に、すみれの視線の透明さと言葉選びの確かさを感じる。読者は、巻頭におかれたこの句によって、一気に谷川すみれの世界に招かれるのである。

岡田耕治・・・・・「序」より


 一九九八年に俳句を始めてから、十六年が経ちました。正確には、三〇代に二年ほど手を染めたことがあります。その時は言葉をナイフとフォークで切り刻んでいるようで、耐えられなくなり止めてしまいました。五〇代に入る前、人生の行く末を考えた時、もう一度俳句に挑んでみようと思いました。言葉が好きだという思いを再認識したからです。このことは、何度か俳句に迷ったり苦しんだりした時に、原点に立ち返らせてくれます。

谷川すみれ・・・・・「あとがき」より


○帯「十二句 久保純夫選」より

 呼ぶ声の吸い込まれゆく蕨山

 蝉の声日に日に汚れゆきにけり

 万人のひとりの胸に花火かな

 湯豆腐やきのう別れたように会い

 新しき痛みの中の猫柳

 目に見えぬものに打たれし月見草

 ゆっくりと水を分けたる錦鯉

 白菜を割り新しき男の手

 やわらかきものたちあがる山桜

 ざわざわと咀嚼しており曼珠沙華

 今生の色を拒みし氷柱かな

 手の上にのせれば光霜柱


○発行所

 香天叢書

◆句集『草原の雲』: 谷川すみれ(たにがわ・すみれ)◆

▲会員の著作一覧へ