関西現代俳句協会

会員の著作(2013年事務局受贈分)

  句集

『仮生』

柿本多映

現代俳句協会 2013年9月1日発行



 忌明をまえに、いま改めて句稿を読み返していると、明らかに夫が書かせたとしか思えない彼の死を予兆するかのような作品に出会い愕然としている。皮肉にも彼は自身の死によって私の作品の中に入り込んで来たのだった。
 前句集『肅祭』刊行直後、畏敬の師桂信子を失い、この間に多くの先輩、友人、そして最愛の兄を見送った。加えて東北大震災、津波、原発事故などやりきれない事象が私の心に影を落とした。その諸々の影を負いながら自在に書いてきた作品。それはとりもなおさず私自身であり、その真実から逃れることは出来まい。書くという行為はそういう事だと今つくづく思っている。

柿本多映・・・・・「あとがきにかえて」より


○帯より

 鏡から尺取虫が出て戻る

 魂魄はスカイツリーにゐるらしい

 ほうたるはふつと螢を忘れけり

 峠では薄目あけるな黒揚羽

 帰郷帰郷と昼顔を踏んでしまふ

 八月の馬来て我を促しぬ

 ひんがしに米を送りて虔めり

 寂しさも塩気なりけり天の川


○発行所

 現代俳句協会

 〒101-0021
 東京都千代田区外神田6-5-4 偕楽ビル7階

 電話 03-3839-8190

 (定価 2,000円(税込))

◆句集『仮生』: 柿本多映(かきもと・たえ)◆

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