関西現代俳句協会

会員の著作(2011年事務局受贈分)

    句集

「さくらがい」

井上菜摘子

文学の森 2011年10月5日刊

 

  桜貝わたくしといふ遠流かな

「桜貝」を主役とした遠き時間・空間をまず提示しながら、そこへ「わたくし」が強制的にわたくしを連れてゆき、しばしその時間・空間に止まらざるを得なくする。わたくしがわたくしに科した「遠流」である。このような時間・空間が作者の俳句地図では大きな分野を占めている。

豊田 都峰・・・・・「帯」より

○帯「菜摘子十句」より

 みづいろの瓶をあふるる春の闇

 兄の掌のさらに遠のく芒原

 銀河あふれ身ぬちの水位とりもどす

 菜の花は吃水線なり逢ひにゆく

 白地図やまづ蝶の径付けてやる

 桜貝わたくしといふ遠流かな

 経糸を抜けば木の実の降りやまず

 スイートピーになるまで言葉漉いてゐる

 夏の蝶風の森まで行くといふ

 斜め読みしてどこまでも枯野なり

○発行所

 文学の森

 〒169−0075
 東京都新宿区高田馬場2−1−2
 田島ビル8階

 電話03−5292−9188

 (定価2571円、税別)

◆句集「さくらがい」:井上 菜摘子(いのうえ なつみこ)◆