関西現代俳句協会

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5月22日
第6回関西現代俳句大会2016年度総会の模様を掲載しました。
5月8日
第3回定例句会(7月30日開催)のご案内を掲載しました。
5月1日
青年部のページを更新しました。
5月1日
今月のエッセイに、森一心さんの「芭蕉終焉の地 」を掲載しました。

2016年5月のエッセイ

芭蕉終焉の地

森 一心

 芥川龍之介の名作『枯野抄』には、松尾芭蕉の臨終の様子が詳細に描かれている。時には元禄7年10月12日の午後、所は大阪御堂前南久太郎町、花屋仁左衛門の裏座敷である。

    旅に病んで夢は枯野をかけめぐる      はせを

 辞世の句を詠んだ芭蕉は死の床についていた。
 「埋火のあたたまりの冷むるが如く」の師を前にして、四方から集まった門下の人々が、医師の木節が付き添うなか、一椀の水と一本の羽根楊枝を手に、末期の水を口中にふくませる。その順序は、其角、去来、丈艸、支考、惟念坊、乙州、惟然坊、正秀、之道、木節、老僕の治郎兵衛であった。

 弟子たちそれぞれの心のうちを、芥川龍之介は見事に克明に描出する。そして「悲歎かぎりなき」門弟たちに囲まれて、芭蕉は静かに息を引きとった。

 ところで、昭和35年(1960)私が入社したのは、紡績10社に数えられる大和紡績であった。所在地は大阪市東区南久太郎町4丁目、御堂筋をはさんで、真正面に南御堂がある。疑いもなく、この地は花屋仁左衛門の裏座敷跡地、「芭蕉終焉の地」そのものである。

 確かな証拠もある。社屋「大和ビル」の真ん中に、大阪府建立の「此附近芭蕉翁終焉ノ地ト傳フ」と刻まれた1mほどの石の角柱が立っている。

 話は変わり私が入社した1960年のことを語りたい。歴史をふりかえる時に「あの年」という特別な年がある。1960年もそのひとつ。政治的には、60年安保の年。経済的には、所得倍増計画が始まり、高度成長がスタートした年。60年安保闘争では、国会突入で樺美智子が死亡、浅沼稲次郎が山口二矢に刺殺された。国論を二分した日米安保条約が成立したあと、国中に虚脱感が漂った。

 巷に流れていた流行歌は、水原弘「黒い花びら」小林旭「さすらい」西田さち子「アカシアの雨」だった。

 30倍の入社試験を突破したわが同期の事務系6人の前途は厳しいものだった。昭和20年代に、日本経済を支えた綿紡の黄金時代はすでに終わりつつあり、常に生産過剰に苦しみ、脱繊維が課題となった。

 しかし、会社は中堅といわれる規模ながら独特な力を持っていた。加藤正人初代社長は、繊維業界代表として参議院全国区に出馬し、2位と4位で2回当選、政界でも活躍した。また、空気精紡機を開発して世界初の量産工場を実現したこともある。さらに三好達治が大和言葉で格調高い歌詞を作り、諸井三郎が作曲した社歌を有していた。プロゴルファー岡本綾子を「世界のアヤコ」として世に送り出したのも、実績に数えられるだろう。

 わが同期は困難を克服して成長した。同期代表の武藤治太6代目社長は念願の復配を果たし、その後の発展の基礎を作った。残り5人も、私を含めて新規事業や関係会社の社長に就任して、一国一城の主となった。

 私自身は45年間の会社生活のなかで、二回も自社の社史を執筆するという稀有の経験をした。30代で「大和紡績30年史」(ダイヤモンド社)60代で「ダイワボウ60年史」(凸版印刷)である。社史に「芭蕉終焉の地」のことを書き込んだのは、私の特別な思い入れでもあった。

 入社時から50余年。変わったことを報告する。会社の所在地はそのままだが、地名表記が中央区久太郎町3丁目となった。会社名がカタカナとなり、ダイワボウHDとなった。業容も繊維だけでなく機械製造、情報システムなど多様化、売り上げ規模は数千億円と拡大している。本社ビルは同じ場所で、「御堂筋ダイワビル」と名を変えて15階建て60mの高さの近代ビルに生まれ変わった。社歌も落合武司作詞、山本直純作曲のものに変わった。そして少し残念なことは、「芭蕉終焉の地」の大阪府の記念石柱の位置が、緑地分離帯の都合で50m北へ移動した。

(以上)

◆「芭蕉終焉の地」:森 一心(もり・いっしん)◆

 

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2016年

タイトル 作 者
4月 近江富士 村井 隆行
3月 イチローと多作多捨 木村オサム
2月 田圃のことなど 久保 純夫
1月 手間暇ということ 宇多喜代子

◆2015年

タイトル 作 者
12月 堺大仙公園の日本庭園平成曲水の宴 谷下 一玄
11月 難病と闘いながら 政野すず子
10月 島の眺め 田宮 尚樹
9月 神戸北野坂界隈とジャズ 西川 吉弘
8月 豊かな時間 西谷 剛周
7月 戦後70年に思うこと
―飾らず、逞しく生きたい―
藤井冨美子
6月 住み心地のよい雑居ビル 辻本 冷湖
5月 生存証明 出口 善子
4月 集中治療室 小泉八重子
3月 それそれ神 辻本 孝子
2月 十年日記 森田 智子
1月 十二月のスーパーマーケットで 宇多喜代子

◆2014年

タイトル 作 者
12月 二つほどのこと 豊田 都峰
11月 365日×3句 岡田 耕治
10月 平和と民主主義を守るために 古梅 敏彦
9月 一枚の写真 前田  勉
8月 あんと王様 鈴鹿 呂仁
7月 スマホ時代に思う 的場 秀恭
6月 プラス・マイナスとは 日原 輝子
5月 ねこのこころ 石井  冴
4月 微風のオデオン広場 花谷  清
3月 三田俳句協会の成り立ち 若森 京子
2月 ある判決への怒り 吉田 成子
1月 日本から初夢を 尾崎 青磁

◆2013年

タイトル 作 者
12月 羊の時間 岡田 由季
11月 アイドル見物 岡村 知昭
10月 「こころ」と「もの」について 金山 桜子
9月 思えば成る 高橋 将夫
8月 糸偏の街 仲田 陽子
7月 大一大万大吉 三木 基史
6月 蚕はなぜ桑しか食べないのだろうか 桑田 和子
5月 句碑一群 山中 西放
4月 私の秘密 久保 純夫
3月 2011.3.11 曾根  毅
2月 密教系の思い出 堺谷 真人
1月 なめらかな時を 和田 悟朗

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年