関西現代俳句協会

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10月1日
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10月1日
今月のエッセイに、久留島元さんの「チョコを食べるのをやめてしまった 」を掲載しました。
9月20日
会員の著作に、米岡隆文さんの句集『虚(空)無』を掲載しました。

2016年10月のエッセイ

チョコを食べるのをやめてしまった

久留島元

 俳句の楽しさは、チョコを食べるのをやめられないのと似ている。

 と言った友人がいた。中毒性があって、一度やめてもまた食べたくなる。そう言っていた友人がチョコ、いや俳句から離れて、もう何年にもなる。

 伝統系の結社に入り、大きな新人賞も受賞して、かなり期待された若手だった。静謐な句風で、同世代の中でも抜きんでた存在だった。

 同じ大学で、一緒に学生句会をたちあげたが、人の集まりが悪く、二年ほどで活動は休止した。私が大学院に進学し、一年後輩の彼女が就職してから、何度か連絡をとったことはあったが、また飲もう、句会やろうと言いながら、結局いまだ会わずじまいである。


 俳句甲子園で優勝した、その日が顧問の先生の誕生日だった。

 そんなドラマチックな優勝を果たした後輩がいる。取り合わせる言葉が奇抜で、日ごろ生真面目で大人しいのに、日常を非日常に変えてしまう魔法のような俳句を作った。季語や俳論の勉強も好きで、新人賞もとって、順風満帆だと思っていた。 大学進学で地元を離れ、句会の機会が減ったと言っていた彼が、だんだん地元に帰っても句会しましょうと言い出す機会が減り、いつの間にかすっかり俳句から離れていた。

 一度、彼の下宿に泊めてもらったことがある。ちょうど『新撰21』が出たばかりのころで、私はそれを手土産に、彼にとっても旧知の人たちの活躍を話して聞かせた。彼は懐かしそうにそれを聞いていたが、結局一度も本を開くことはなかった。その夜はそのまま馬鹿話をして終わったが、本当に俳句に興味を失ったのだと、すこし寂しい思いがした。


 俳句を離れた友人たちは多い。進学や就職、結婚など環境が変わり、ほかに打ち込めるものを見いだした人。人間関係のトラブルで疎遠になり、それっきりになってしまった人。特に理由もないまま熱が冷めて去って行った人たち。

 私よりよほど才能と機会にも恵まれていた人たちが、あっさり俳句から去ってしまった。特に期待もされていなかった私が今も俳句を続けているのは、ただそれが許される環境にあったからで、偶然の要素も強い。だからそれを誇ろうとは思えないし、むしろ気恥ずかしささえある。

 それでも私はいつか、ふと立ち寄った本屋の隅で、あるいはネット上で、彼らの目に「俳句」の文字が触れることがあるのではないかと思う。そのとき、俳句への関心が少しでもざわつけば、それで俳句は報われる。俳句は、俳句を続けていく少数の作家とともに、俳句に関心を持つ多くの裾野に支えられてこその俳句だ。 だからこそ、いつか彼らに届く俳句でありたいと思う。

 再び彼らが手にしたくなるような、そんな俳句でありたいと思う。

(以上)

◆「チョコを食べるのをやめてしまった」:久留島元(くるしま・はじめ)◆

 

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2016年

タイトル 作 者
9月 灸花 志村 宣子
8月 野風呂岬を訪ねて 鈴鹿 呂仁
7月 弘前城の曳屋工事と甥の結婚式 綿貫 伸子
6月 技能・芸能の霊性と歴史性 熊川 暁子
5月 芭蕉終焉の地 森  一心
4月 近江富士 村井 隆行
3月 イチローと多作多捨 木村オサム
2月 田圃のことなど 久保 純夫
1月 手間暇ということ 宇多喜代子

◆2015年

タイトル 作 者
12月 堺大仙公園の日本庭園平成曲水の宴 谷下 一玄
11月 難病と闘いながら 政野すず子
10月 島の眺め 田宮 尚樹
9月 神戸北野坂界隈とジャズ 西川 吉弘
8月 豊かな時間 西谷 剛周
7月 戦後70年に思うこと
―飾らず、逞しく生きたい―
藤井冨美子
6月 住み心地のよい雑居ビル 辻本 冷湖
5月 生存証明 出口 善子
4月 集中治療室 小泉八重子
3月 それそれ神 辻本 孝子
2月 十年日記 森田 智子
1月 十二月のスーパーマーケットで 宇多喜代子

◆2014年

タイトル 作 者
12月 二つほどのこと 豊田 都峰
11月 365日×3句 岡田 耕治
10月 平和と民主主義を守るために 古梅 敏彦
9月 一枚の写真 前田  勉
8月 あんと王様 鈴鹿 呂仁
7月 スマホ時代に思う 的場 秀恭
6月 プラス・マイナスとは 日原 輝子
5月 ねこのこころ 石井  冴
4月 微風のオデオン広場 花谷  清
3月 三田俳句協会の成り立ち 若森 京子
2月 ある判決への怒り 吉田 成子
1月 日本から初夢を 尾崎 青磁

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年