関西現代俳句協会

2020年10月のエッセイ

窯神

山田 和

   

 私は、国宝展で火焔を形取った縄文時代の土器を見たことがあった。縄文時代、我々の祖先は、どの様な生活をしていたのだろうか? この土器は狩猟の秋まつりに使われていたのだろうか? とイメージがふくらむ。
 もし、この会場に誰も居なければ直接に土器を手にとって、こっそりと縄文時代の土に触れていたであろう。

    縄文の火焔土器とや秋祀り    和

 ある年の秋、備前焼の陶芸家と縁を得て、親しく話を聞くチャンスに恵まれ陶芸の教えを得ることが出来た。
 備前の陶房を訪ねた時、土を愛し大切にした作品に接し、かつて縄文の火焔土器を見た時の興奮が甦り、土に触れたい思いが起ったのである。
 備前焼の登り窯は縦に五段つながり、窯の周囲には、松の割木が高く積まれ家屋敷もろともに取り囲んでいた。

    月白や高々と積む松割木     和

 備前の陶土は約2億年前の海底だった土とのことで、伊部(いんべ)の畑の中から掘り出して何年も土を寝かせるらしい。
 その黒っぽい灰色の土を私は手の平で力を込めて練ってゆく。全身の力を掌にのせて練る。やがて土は掌に吸いつく温かさになった。
 土は生き物のようであり、土に生命が宿ったような感じを覚えた。

    粘る土に己が温もり秋澄める   和

 陶師は作り溜めていた壺、大皿、碗などの土の作品を登り窯へびっしりと詰めてゆく。私の作品も窯の一隅へ置かせてもらった。
 大安吉日の朝、縁起を祝って盛塩、榊、新酒を窯神へお供えし祈る。

    窯神へ火入れの新酒供えけり   和

 いよいよ窯への火入れとなる。14日間ほど窯の火を絶やしてはならない。昼夜、側で火を守り続けるのだ。

    窯の炎と語る陶工星月夜     和

 土を裸のまま釉薬を掛けず長時間(約14日間)松薪を使って焼きしめた後、窯が冷えるのを待って窯開きである。
 槌で打いて割って開けた窯口から、奥の壺の窯変、花器、大皿の火襷、碗の艶光りが、魔法の洞穴の宝物のように、目に飛び込んで来た。窯神の炎は土の素晴らしい表情、貌を成し様々な心までも表現してくれた。
 土の色は火焔によって 朱 青 炭 錆 などの彩に変わる。窯神のなせる独特の土味は、日本の焼きものの美の歴史ともいえる。

 その時の私の作陶は、窯変の花器として次のように命名した。
 『備前焼 古手籠花入』 銘十三夜

    罅割れや窯神の黙秋深む     和

(以上)

◆「窯神」:山田 和(やまだ・かづ)◆

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