関西現代俳句協会

2020年6月のエッセイ

再会

江島照美

   

 故郷を離れて半世紀になる。今回は3度目の帰省。遠い故郷熊本だった。
 母を亡くして2年目の92歳の父を連れ、妹と3人での2泊3日の帰省の旅だ。

 父の90歳の妹、94歳の姉も健在の今しかないと、決断したのが今年1月だった。すべて手配した後、コロナの蔓延。気持ちは揺れるが、90歳代の3人がこれからどれだけ頭と身体が再会を喜べる状態でいるか分からない。コロナウイルスで老人会は全て休会となり、他人との接触がなくなった父は、認知症が進む。高齢者は感染したら恐いと報道されるが、すべての高齢者が移るとは限らない。『3月27日決行』

 新幹線の車内は半分ほどが空席。ホテルでも、お客とすれ違うことは少なく、コロナの影響は大きい。しかし、繁華街はそれなりに若者もいてにぎやかだ。

 私たちの外出は、不要不急ではない。必要必急だと自分に言い聞かせながらの帰省。
 無事トラブルもなく2泊3日は終わった。

 父方のいとこ8人が55年ぶりに再会。思い出の中の幼子は別人となっていた。

 それぞれどんな人生を歩んだのか。断片的な話や服装などで生活の様子がわかる。熊本という土地柄亭主関白な面も未だにあるようだ。それでも、皆逞しく生きている。幼い頃一緒に遊んだいとこたちは、歳月を越えて心を開いてくれ、他人には言えない実話を話してくれた。人と人との繋がりは不可思議だ。やはり、10歳くらいまでに親しくすることが必要な気がする。

 ところで、私が熊本で入学した高校は俳人中村汀女の出身校、熊本県立第一高校。入学した当時は、俳句には全く興味がなかった。ただ、高校に合格したことが嬉しくこのまま卒業できることを疑わなかった。

 熊本県立第一高校は熊本城の近くにあり、当時寮もある良い環境の高校だったが、父の事情で高校2年より関西の高校に転校した。私のいとこの中で、同じ高校出身は私も含めて4人。他県に住む私だけが俳句に親しんでいる。

 2016年4月14日熊本地震で熊本城は崩壊。テレビに映る熊本城の崩れて行く姿に胸を締めつけられたが、修復の順調に進んでいる状況を見て、来て良かったと安堵した。水前寺成趣園は相変わらず美しい水を湛えた庭園だった。なかにある出水神社では、めでたくも結婚式が行われていた。

 変わるもの変わらぬもの様々だが、不易流行とも言えるのでは。人も大自然の一部。生死などあまり考える必要はないのかもしれない。今回の旅は、人も自然も大きなサイクルで考えることが大切だと感じさせてくれた。

 「セレンディピティ」を掴む力が人生を明るくしてくれると確信した旅だった。

(以上)

◆「再会」:江島照美(えじま・てるみ)◆

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