関西現代俳句協会

2018年3月のエッセイ

式年開帳

蔵田ひろし

 40歳を過ぎた頃から早や老眼になった。父譲りの近眼で、その父は50歳を前にして白内障となり、当時それほど医療技術が進んではおらず、手術後身動きできない状態で呻吟している父を目の当たりにしている。
 私もやがて物が見えなくなる日が来るに違いないと思い定め、せめて亡くなるときに知盛ほどではないにしろ「見るべきものは見つ」の自足の境地に至りたいと考え、めったにお目に罹れないものを見に行こうと決めた。

 平成3年から職場句会の世話役を一手に引き受けて、近畿2府4県各地を、毎月第3土曜日に吟行しており、同じ場所は重ねて吟行しないということをモットーにしていたのだが、御開帳が行われるということで、清水寺の本尊を平成12年に、奥の院の本尊を平成15年に重ねて吟行したことがあり、御開帳される全ての仏様と縁を結ぼうと発心した。

    五条坂茶わん坂来て御開帳     ひろし

 年中行事として年に1度開扉される仏様も世間では御開帳と表現しているが、私がお会いしたいと発心したのは、式年開帳の仏様である。
 お寺によって様々な式年が定められているが、一番有名なのは善光寺の御開帳だと思う。7年に1度のご開帳といわれているものの、数えで7年という周期であり、干支1巡の間に2回御開帳が行われる。

 私が過去お参りしたお寺で式年が一番長かったのは、100年に1度というものだった。
 十干十二支の特定の年に御開帳を行なうというお寺も多いが、馴染みが深いのは33年という式年であろう。この式年は、観世音菩薩が衆生を救わんとして33身に変化すると観音経に書かれていることに由来する。

 発心したまではよかったが、いくつかの参考文献はあるものの、具体的に式年開帳の社寺をリストアップしたデータなどはない。なければ自分で作るしかないと腹を決め、爾来1600件超の式年開帳を行なう社寺のデータベースを作り上げた。
 とても全てのお寺を廻りきることは出来ないので、式年が12年超の社寺に限定して参拝することにし、現時点開帳予定年度が判明しているのが、およそ600社寺くらいある。

 その内、今年御開帳される予定の社寺は、昨年度とほぼ同数の50社寺ほどあり、全ての土日を参拝に充てても回りきることは到底出来ない。同じ日に遠く離れた場所で複数の御開帳が行われることも多々あり、式年の長短で参拝する社寺を選択している。
 というのも、今年の誕生日で58才を迎えることになるので、33年に1度のご開帳は運が良ければ次回参拝できるかもしれないが、式年が60年の社寺はその時に参拝しなければ、生涯その機会はない。

 妙なことを発心したものだと自分にあきれつつ、毎週土日になると遠隔地を参拝するために、夜行バスに乗り込んでいる。

(以上)

◆「式年開帳」:蔵田ひろし(くらた・ひろし)◆

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