関西現代俳句協会

2010年 8月のエッセイ

きくよ夏の句より二題

吉田 星子

 古川柳「夕涼みよくぞ男に生まれけり」とあるように、夏場は男の方が楽に過せそう。

 亡父すばるの元同僚で現在もご活躍の俳人:梶本きくよさんが居られます。その句に寄せて一文認めました。

  すててこの車を洗ふ日曜日  きくよ

  住宅街ではよく目にするの図。昔颯爽として女心を口説いた旦那様。髪もふさふさとしていたし、黒くて艶があった。外で逢えば、大切な一日のスケジュールをきちんと立てていて頼もしい。この人ならと、我が一生を託した伴侶。

 今ではもうお互いを知り尽くして遠慮というものが無くなった。これでいいのだが、何だか騙されたような、損をしたような気がしないでもない。近頃は奥様よりも車の方に、愛の手を施す時間がとみに増えて、自分は置き去りにされているみたい。車に嫉妬する訳にも行かず、

 40代、50代の夫婦なら正常。結婚後間もなく旦那が様変わりで車に手をかけ過ぎるのはイエロー信号。綺麗に磨いた車に乗るのは、他所の女かも知れない。注意肝要、注意肝要。 もう1句 

 ビール注ぐすこしの嘘はつかせおき  きくよ

  これなんですよ女性の”凄い”ところは。所詮、お釈迦様の手の平の上であっち行き、こっち行きしている孫悟空と、男はそっくり。男には女の嘘が見抜けないのに、男の嘘は女にゃー直ぐ判る。男は嘘をつく時、余計な事言ったり、いつもと違った行動を取ったり、妙に優しくなってしまうから、女の頭にある異物検出器がすぐピンと反ねてしまう。

 気づかれているのに、まだ嘘の上塗りを男はしてしまう。程度問題であるが、まあ少し見逃せる範囲内であれば、女は可笑しさ堪えて目を瞑る。男の根正直さにほだされ、女もお酌などしてサービスする。そこまでサインを出しているのに未だ気づかない。男って、ヘンな生きもの。                     

(以上)

◆「きくよ夏の句より」 (きくよなつのくより) : 吉田 星子 (よしだ せいし)◆