関西現代俳句協会

2010年 3月のエッセイ

「嬉しくて一寸哀しい『元気七〇パス』」

  古梅 敏彦

 最近、和歌山市から「元気七〇パス」なるものを交付されました。

このパスで和歌山市内一円は和歌山バスと那賀バスを一回100円で利用出来ます。  これと似た高齢者割引制度は以前も有り、65才からの適用でしたが、市が財政難の為、一旦中止となり、一年後、利用者年齢を70才からと改訂して、再度実施されたのです。  以前の制度は、市とバス会杜が運賃精算の負担割合で双方に不満があり、利用方法にも「名義外の不正使用」など問題が有りました。

 そこで、和歌山バスの労働組合の委員長をされていた方の案が、交通政策会議で採り上げられ、関係者協議のうえ、市議会の議決を経て、今の制度に移行したのです。

 利用の方法は、優待証(男女の色分けをし、写真を貼付することで個人の識別を容易にした)を提示し、一般のバスカードと同じように、元気七〇パスを読み取り機に通し、100円を支払えばそれでOK。

 この制度は交通弱者といわれる高齢者に好評裡に迎えられました。  運行系統をうまく選択、利用すれば、百円のワンコインで市内全域をカバーしてくれるのですから、私のように市の南端に住まいしている者にとっては、市役所や市民会館、図書館、句会など市の中心部へ出掛ける時は大変有り難いのです。

 市としては、独自で市民の足を確保するより、既にある交通機関を活用することで安上がりとなるし、バス会社にとっても自家用車全盛の昨今、利用者を確保して一定の協定金を受け取れるので、固定収入源として評価しているようです。

 前述の如く、高齢者の利用が多く、「先ず100円は基本的な現金収入になる」ので、バス会社も更に一般旅客も増やそうと、停留所の改善や低床バスの導入など意欲的に取り組んでいます。

 私は以前からこのパスの適用を心待ちにしていたのですが、いざそれが現実となってみると、経済面で助かる有り難さと共に、「いよいよ古稀か」と、改めて自分の年齢を再認識させられ、「とうとう杜会の皆さんから労ってもらう対象の歳になったか」と、いささか複雑な感慨も抱いたのです。

 市の高齢者福祉課に行きますと、バスのカードの他に市の各施設や公衆浴場等の優待証と割引一覧表も手渡されました。

 市の福祉政策の一環であることは勿論でしょうが、高齢者が家で燻っていて、健康を損ねるよりも、元気に出歩いて活動してもらう方が、市の健康保険の財政に寄与することになるし、地域経済の活性化に繋がると、為政者は考えているのかも知れません。

 「車を運転する機会を減らすように」という家人の勧めもありますが、100円で利用出来るようになってバスに乗る機会が増え、改めてバスの良さを実感しています。

 町中で車を運転していると、とにかく事故の無いようにと、前方をキッと見据え、サイドミラーやバックミラーにも気を配り、一寸の油断も出来ない。当然、周囲の景色など見ている余裕などとてもありません。

 一方バスでは、運転士さんまかせで気楽なことこの上ない。  周囲の景色を眺め、「オッ、あんな店が出来てるぞ」とか、街路樹に季節の移ろいを感じ、車内では通学の小学生の賑やかさに活力を貰い、エアコンの効いた車内はこの上もなく快適だ。

 しかしバスの運行環境は必ずしも良くは有りません。優先道路もほんの一部ですし、信号等も一般車両と同じで、定刻運転の確保も難しいのが現状です。

 石油枯渇や化石燃料の大量消費による環境問題の点からは、効率的な大量輸送機関に重点を置いた交通政策への転換を、国が主導して取り組むべきだとつくづく考えさせられます。

 ともあれ、この歳まで健康で過ごせて来たことに感謝し、謙虚にこの制度を利用していかねばと思っています。

 交付当日は早速、帰路を使わせて頂き、通常440円のところを100円でお世話になりました。

 冬温しまどろみ過ごす停留所

(以上)

◆「嬉しくて一寸哀しい『元気七〇パス』」 (うれしくて ちょっとかなしい げんきしちじゅうぱす) : 古梅 敏彦 (こばい としひこ)◆