関西現代俳句協会

2008年 9月のエッセイ

「クレオパトラが 」

日原 輝子

 アロエと慣れ親しんで四十年弱、四季を通じて身辺から離したことのない、大切な存在である。

 現在の家に引越した時に頂いたアロエを、大切に地植えをして育てていた。夏季にはよく成長をし、随分と繁殖した。何年位後だったろう。藁囲いをして 越冬させていたが突如凍ててしまった。凍てに懲り鉢植えで一からやり直し、今は私に足るだけを育てている。

 アロエはゆり科の多年草だが見た目にはゆり科とは思えない形状をしている。 種類は多いが薬用種は四種でアフリカ産が主である。冬には育て難い筈だ。温室の無いのは辛い。アロエを掘り上げガレージに逆さ吊りをしておけばよいと教えられ、実行した迄はよかったのだが、三、四ヶ月間、自動車の出し入れ以外はシャッターを閉ざしたままにしておいたので、ガレージの厭な匂いが移ったアロエは、捨てざるを得なかった。つまらないミスを重ねたこのアロエは「医者いらず」としてよく知られているキダチアロエである。鉢植えにしてからの越冬はテラスや玄関ポーチであり、十二月には赤い花を咲かせている。

 或る日、「これはよく使われているアロエの十倍は効きますよ」とアロエ・ベラを届けて下さった。この時は、生涯必要になる等と考えもしなかった。この後、多くの効用を実証する事になる。その中から記すと

 牛乳を温めすぎたのを忘れ、そのままうっかりと口にした一瞬の出来事。口中の大ヤケドは凄かった。上顎と唇は水ぶくれ、頬も舌も真っ赤にただれ声も出せない。直ぐにベラの葉のゼリー部分を口に詰め込む程に含み、唇に貼りつけマスクをした。何と暫くすると痛みが消え、完治に日数がかからなかったと記憶がある。アロエは組織の欠損部位を下から盛り上がらせ、然もその傷についた細菌をおさえるのでヤケドによいとのこと。又、中耳炎に悩まされ耳鼻科通いに忙しかった三十有余年が、緑膿菌をも殺すアロエで年に三回程通う迄に激減。本当に有難いことだ。

 何にでも効くだろうのヤミクモの使用はいけない。薬用成分は負の作用を起こすものだ。間違った服用や塗布は避けるべきである。

 最近、『世界薬用植物百科事典』(A・シェヴァリエ原著 難波恒雄鑑訳)のアロエについて挙げられている項目〈歴史と民間の伝承〉の中に記載の六ヶ条のひとつ「美容に:アロエ・ベラは、皮膚のローションとして長い歴史があり、クレオパトラが美容のために用いたともいわれている。」との一文に接し、クレオパトラがと、びっくりしながら頻りに頷いていた。

 化粧品負けをする私はアロエ・ベラのゼリー部分を毎日顔に塗っており、旅行にも葉を一枚持って行く習慣となっている。

  介護者のようにアロエを旅初秋   輝子

  ありがとう花のアロエに呟くは    輝子

(以上)