関西現代俳句協会

2005年10月のエッセイ

「極楽往生」 谷口 洋  

九月の初め、JR京橋駅から大和路線の快速加茂行に乗車。ゆっくり座席に着いて、これで目的の王寺駅。王寺駅からはバスに乗り、龍田神社前で下車、龍田神社まで徒歩数分。

神社の境内には地区の青年団が出て、秋祭の神輿を組み立てていた。祭は十月八日だという。若い男女が神輿を組むのに汗を流していた。ここでは地域の文化が確りと継承されている。過疎によって地域の文化が途絶える地方も多くあるが、こうして汗を流す青年団の活動は貴重だ。その中の一人が、神輿の大きさや重さ、神輿を担ぐ人数等々、いろいろと説明してくれ、最後にその祭を見に来て欲しいと言っていた。また、ここは金剛流の発祥地でもあると説明板があった。その横に八本に分岐した天然記念物の蘇鉄、社殿の前には鉄の突っ支い棒に支えられた大楠があり、神社の歴史を感じさせたが、松が枯れ始めていたのは痛々しい。次に、国道を挟んで建つ吉田寺へ。ここは、!,通称「ぽっくり寺」と呼ばれ、下の世話にならず極楽往生出来るらしい。ここで生まれ育った初めての住職が、その由緒来歴を語っていた。私は、祈祷を受けられた方への説法を、横で聞いたのに過ぎないが。お陰で薮蚊に襲われ往生した。創建は古く天智天皇の勅願と伝えられ、本堂西側に妹君の間人内親王を葬るといわれる清水古墳がある。開基は恵信僧都源信。本尊は丈六阿弥陀如来像で、通称は「大和のおおぼとけ」。その他に、重文の多宝塔、内部には恵信僧都の父卜部正親の菩提追善のための大日如来像が安置されている。鐘楼は安永三年に完成した袴腰の姿のいい建物。梵鐘は供出され戦後に新鋳されたとある。周りを竹薮と樹木に囲まれて、ひっそりとたたずむ静かなお寺である。さて、信心希薄な者も、ぽっくりと極楽往生できるだろうか。

死に損なひが秋のぽつくり寺にゐる

秋の蚊の不意打ちくらふ弥陀の前

以上

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