関西現代俳句協会

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11月4日
会員の著作に、伊丹三樹彦さんの『俳縁写縁の友垣』と矢野夏子さんの『砂時計』を掲載しました。
11月1日
青年部のページを更新しました。
11月1日
今月のエッセイに、出口善子さんの「三種の神器」を掲載しました。
10月20日
イベント案内に「平成30年度忘年会&第43回句集祭ご案内 」を掲載しました。

2018年11月のエッセイ

三種の神器

出口善子

 近頃、私は三種の神器を手にいれた。

 一つは、白い大判のレース状に編まれたモヘアのスカーフ(黒い服を常用していて虫に狙われやすい為)。二つ目は、携帯用虫除けスプレー。そして、第三番目には、熊除けの鈴。これだけあれば、心置きなく戸隠の越水高原で隠遁生活ができる。

 今年の夏は、日本列島が、いや地球全体が異常気象で、猛暑の中では脳が正常に働きそうにない状態であった。そこで、この七月、本の校正やら、選句やらを持って、溽暑の都会から逃れて、信州戸隠で気分よく仕事ができるように謀ったのだった。

 ここではホトトギスが囀り、それにウグイスが加わって、目覚めはすこぶる快適である。また、同宿になる人々の興味深い話なども聞けて、未知の分野の知識が増えて楽しい。

 一度、バードウオッチング専門の人達に出合った。ホトトギスは、ウグイスに托卵するとされている話から、そのためにはウグイスの方が先に生存していたのですか、と聞くと、むしろ逆で、ホトトギスの方が早かったらしいと言う。しかも、今でも外国のある地域では、集団生活をして、自分で卵を温めて育てているホトトギス達が、実際にいるのだそうだ。環境によって色々な進化、即ち、生きのびるための手段を様々にこうじて来たらしい。そうなると、ホトトギスは托卵するものと決めつけるのは早計のようだ。人間を取り囲む環境は、まだまだ解らないことだらけで、動物図鑑など書き換えなければならないことが沢山あるらしい。 学校で習っていることの中には、不確かなものも沢山雑じっているといえそうだ。子供でも、熱心に一つの事象を見続けて観察すれば、大きな発見が出来、社会に貢献できるかも知れない、学校だけが勉強の場ではないことを教えてあげたい、そうすれば、苛めで自殺する子供なんて一人もいなくなるのに、とその人たちは声を揃えて言っていた。

 鳥は、飛ぶために身を軽くしていて、骨などはスカスカだという。まるで骨粗鬆症。だから、土に埋めたりすると、三日で分解してしまうのだとか。鳥の爪なども、止まる木の箇所、枝か幹かによるだけで、形が異なるのだそうだ。

 私が、熊除けの鈴をならしながら越水高原を散歩していた時、小さな鼠のような骸を見た話をすると、それはモグラかもしれませんよという。モグラは、体を何処かに触れていないと、ストレスで死ぬのだそうである。視力が弱いから、頼るものがなければ強烈なストレスがかかるという。そういう動物の生態をきちんと把握していないと、動物園などで飼い続けることはできないとか。尤もな話だ。

 9月末にまた隠遁すると、偶然、連中と同宿になった。また面白い話が聞けると楽しみにしていると、今度はあべこべに、芭蕉はスパイだったという説がありますが、どうなのですかと訊かれた。

    鷹一つ見つけてうれし伊良古崎  

 なんて芭蕉の句をすらすらと言ってのけられては、返答もしなければならず、怪しげな私見を述べる羽目になった。

 実をいうと、その件の私の興味は、芭蕉ではなく曾良の方にある。曾良の履歴には消息不明な時期もあるし、想像を逞しくすれば公安の役目が出来た唯一人の人だ。芭蕉の死後、幕府の命令で巡見使随員となり五島列島に行っている。今ならさしずめ国家公務員。そこで客死した。私は五島列島で、曾良の墓石を見たとき、言い知れぬ違和感を覚えた記憶がある。去来などとは違い、最後まで文学に身を投じた人ではなかったようだ。若ければ、「曾良物語異聞」でも書いてみたいところだ。

 兎に角、私の三種の神器は、色々な興味を掻き立ててくれる、貴重な品々なのである。

 翌朝、その動物学者たちは、鷹柱を見に朝早く出かけて行った。

      

(以上)

◆「三種の神器」:出口善子(でぐち・よしこ)◆

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2018年

タイトル 作 者
10月 「卒業」の話 野住朋可
9月 ヒロシマの首飾り 花谷 清
8月 朱夏のネアンデルタール人 柳川 晋
7月 一人がため 曾根 毅
6月 兜太氏と秩父の思い出 桂 凜火
5月 選のチューニング 小池 康生
4月 高野素十のコントラスト視点 橋本小たか
3月 式年開帳 蔵田ひろし
2月 わたしの俳句観 平田 繭子
1月 炉話のこと 宇多喜代子

◆2017年

タイトル 作 者
12月 私が『鳥取の俳人 尾﨑坡酔』を出したわけ 小山 貴子
11月 俳句と私 桑田 和子
10月 句集のすすめ 外山 安龍
9月 松茸 西原 和孝
8月 大いなる未完の人 藤川 游子
7月 近頃、俳句に思うこと 米岡 隆文
6月 悪筆三銃士 藤本  晉
5月 「丹波百谷」俳句の今昔 大谷 茂樹
4月 おいしいアニミズム 三好つや子
3月 小海線のおにぎり 大城戸ハルミ
2月 はじめて通る道 谷川すみれ
1月 旅をする蝶 吉田 成子

◆2016年

タイトル 作 者
12月 命綱の結び方 花谷  清
11月 初学のこと 丸山 景子
10月 チョコを食べるのをやめてしまった 久留島 元
9月 灸花 志村 宣子
8月 野風呂岬を訪ねて 鈴鹿 呂仁
7月 弘前城の曳屋工事と甥の結婚式 綿貫 伸子
6月 技能・芸能の霊性と歴史性 熊川 暁子
5月 芭蕉終焉の地 森  一心
4月 近江富士 村井 隆行
3月 イチローと多作多捨 木村オサム
2月 田圃のことなど 久保 純夫
1月 手間暇ということ 宇多喜代子

◆2015年

タイトル 作 者
12月 堺大仙公園の日本庭園平成曲水の宴 谷下 一玄
11月 難病と闘いながら 政野すず子
10月 島の眺め 田宮 尚樹
9月 神戸北野坂界隈とジャズ 西川 吉弘
8月 豊かな時間 西谷 剛周
7月 戦後70年に思うこと
―飾らず、逞しく生きたい―
藤井冨美子
6月 住み心地のよい雑居ビル 辻本 冷湖
5月 生存証明 出口 善子
4月 集中治療室 小泉八重子
3月 それそれ神 辻本 孝子
2月 十年日記 森田 智子
1月 十二月のスーパーマーケットで 宇多喜代子

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年