関西現代俳句協会

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3月14日
会員の著作に、瀬川照子さんの『私の中の芭蕉 心で読む「おくのほそ道」』を掲載しました。
3月1日
青年部のページを更新しました。
3月1日
今月のエッセイに、久保純夫さんの「初学のころ」を掲載しました。

2019年3月のエッセイ

初学のころ

久保純夫

 俳句らしきものに携わったのは、今から半世紀以上前、中学生3年生のことである。川口一法先生。俳号は芳雨。教科担当は数学。その先生に俳句を教わった。数学の授業も、問題を黒板に書き示し、解けた者が先生にその解のノートを見せに行くという、方法だった。合っていれば英語の筆記体で「good」と赤ペンで書いてくれた。生徒達は速さを競っていたような気がする。

 土曜日の午後、図書室で句会があった。先生3、4人と生徒が10人弱集まった。たぶん互選は発表しないで、芳雨先生の選評のみだった。どうして中学生が俳句のような地味な活動に勤しんだのかは、いまでも疑問であるが、たぶん先生の奇妙な迫力の故であったろう。短躯ではあったが、柔道をやっていたせいか、強靭で力強い体型であった。また聲も鍛えられていた。酒が大好きだったせいか、酒焼けの顔をしていた。その先生が主宰していたのが「潮流」という俳誌であった。

 この地には黒崎の松原と名付けられた白砂青松の海岸があった。紀貫之の「土佐日記」には次のように記されている。「所の名は黒く、松の色は青く、磯の波は雪のごとくに、貝の色は蘇芳に、五色にいま一色ぞたらぬ」。足りないのは黄色。かつて貫之の祖、紀氏が治めていたのだった。この泉南郡岬町はいまでも大阪府では唯一の自然海岸が残っている。

 このような自然情況を背景として、先生の俳句指導があった。芳雨先生には青少年を育ててやろうという強い意欲があったのだろう。句会もその場かぎりのものではなかった。もともと先生は「南風」(当時は山口草堂主宰)同人であった。(おかげで、山口草堂さんや鷲谷七菜子さんともお会いできた。)見込みのある生徒は親雑誌(南風)に推薦したり、俳句を紹介もしていたようだ。加えて、新聞の「サンケイ俳壇」に教え子の俳句を投句していた。生徒本人に知らせることもなく、自ら葉書にせっせと認めていたのだ。私たちは選ばれた句が新聞に載って、初めてその事を知ったのである。先生の指導よろしきを得て、大人たちにまじり、サンケイ俳壇賞を何度も獲得する生徒が出てきたりもした。一時、俳壇でも注目されていたように思う。私の俳句も何回か選ばれた。たぶん高校生になってからだった。「癒えし身に春暁の日の海広し」「曇天の花散る数の果て知れず」「泉に来て『濁すな』竹の筒で飲む」「青蜥蜴小さくて振る尾の速き」「木の葉雨女の言葉今生まる」。ただ今よりマシかもしれない。同じ日付けの欄に現在は親友になっている北野秀生の句「白蓮の匂ひは細き風の中」が載っている。彼とはもう50年も付き合っていることになる。

 川口芳雨先生の教え子で、現在も活躍している俳人も何人かは存在している。「香天」代表の岡田耕治さん。「藍」の辻本孝子さん。「船団」所属の木村和也さん。彼は何と私の出身高校・文芸部の2年先輩である。また正統?な俳句はやめて、もっぱら駄洒落俳句を1日1句書いている土井英一さん。彼は私の個人誌「儒艮」に毎回「四季の苑 漫遊」と題するエッセイを書いてくれている。面白いので、隠れファンがいっぱいいるようだ。北野さんと同様、私の野菜供給源でもある。旧「海程」の大谷清さん。画家でもある。

 毎日散歩をしている。田圃や畑の作物の生育状況を観察したり(自分のものでもないのに)、家家の庭の植木や草花を楽しんでいる。そういう道筋に、芳雨先生のお宅があり、時時、先生の相貌を思い出している。

(以上)

◆「初学のころ」:久保純夫(くぼ・すみお)◆

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2018年

タイトル 作 者
2月 便船塚 おおさわ
ほてる
1月 観光公害 宇多喜代子

◆2018年

タイトル 作 者
12月 新とか旧とか 小林かんな
11月 三種の神器 出口 善子
10月 「卒業」の話 野住 朋可
9月 ヒロシマの首飾り 花谷  清
8月 朱夏のネアンデルタール人 柳川  晋
7月 一人がため 曾根  毅
6月 兜太氏と秩父の思い出 桂  凜火
5月 選のチューニング 小池 康生
4月 高野素十のコントラスト視点 橋本小たか
3月 式年開帳 蔵田ひろし
2月 わたしの俳句観 平田 繭子
1月 炉話のこと 宇多喜代子

◆2017年

タイトル 作 者
12月 私が『鳥取の俳人 尾﨑坡酔』を出したわけ 小山 貴子
11月 俳句と私 桑田 和子
10月 句集のすすめ 外山 安龍
9月 松茸 西原 和孝
8月 大いなる未完の人 藤川 游子
7月 近頃、俳句に思うこと 米岡 隆文
6月 悪筆三銃士 藤本  晉
5月 「丹波百谷」俳句の今昔 大谷 茂樹
4月 おいしいアニミズム 三好つや子
3月 小海線のおにぎり 大城戸ハルミ
2月 はじめて通る道 谷川すみれ
1月 旅をする蝶 吉田 成子

◆2016年

タイトル 作 者
12月 命綱の結び方 花谷  清
11月 初学のこと 丸山 景子
10月 チョコを食べるのをやめてしまった 久留島 元
9月 灸花 志村 宣子
8月 野風呂岬を訪ねて 鈴鹿 呂仁
7月 弘前城の曳屋工事と甥の結婚式 綿貫 伸子
6月 技能・芸能の霊性と歴史性 熊川 暁子
5月 芭蕉終焉の地 森  一心
4月 近江富士 村井 隆行
3月 イチローと多作多捨 木村オサム
2月 田圃のことなど 久保 純夫
1月 手間暇ということ 宇多喜代子

◆2015年

タイトル 作 者
12月 堺大仙公園の日本庭園平成曲水の宴 谷下 一玄
11月 難病と闘いながら 政野すず子
10月 島の眺め 田宮 尚樹
9月 神戸北野坂界隈とジャズ 西川 吉弘
8月 豊かな時間 西谷 剛周
7月 戦後70年に思うこと
―飾らず、逞しく生きたい―
藤井冨美子
6月 住み心地のよい雑居ビル 辻本 冷湖
5月 生存証明 出口 善子
4月 集中治療室 小泉八重子
3月 それそれ神 辻本 孝子
2月 十年日記 森田 智子
1月 十二月のスーパーマーケットで 宇多喜代子

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年