関西現代俳句協会

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12月31日
青年部のページを更新しました。
12月31日
今月のエッセイに、吉田成子さんの「旅をする蝶 」を掲載しました。
12月29日
会員の著作に、藤川游子さんの
『藤川游子句文集 句集游庵 文集敬天』を掲載しました。

2017年1月のエッセイ

旅をする蝶

吉田 成子

 三重県の中部、美杉町にアサギマダラが乱舞する畑があるというので訪ねてみた。かねがね見たいと思っていた渡りをする蝶である。そこは村おこしの一環として、アサギマダラが好んで来るという藤袴を休耕地に植えてこの蝶を呼ぶ活動をしている。

 アサギマダラは翅を拡げると10センチほどの大きさで、紋白蝶などと比べると大型の蝶であるが、美しい翅で2千キロメートルを超える距離を飛ぶという。この蝶は春から夏にかけて本州で繁殖し、秋には遠く九州や沖縄、果ては台湾辺りまで移動し、冬の間は暖かい地で過ごすそうだ。海を越えてそんな長距離を飛ぶのだから、さぞ強靭な翅を持ってゐるのだろうと思っていたが、その翅は思いのほか繊細である。ここでは秋の七草の一つ藤袴が咲くと飛んでくるそうで、さほど広い畑では無かったが浅葱色に黒い斑模様の翅を存分に拡げ、何匹も飛び交っていた。

 アサギマダラは春に本州に飛来し、卵を産んで一生を終えるが、卵は幼虫の間にガガイモ科の植物であるキジョランなどの葉を食べて育つ。この葉には毒性の強いアルカロイドの成分が含まれていて、その毒素を体内に取り込み成虫となる。藤袴に集うのはこの花にもアルカロイドが多く含まれており、蜜を吸うことで体内に毒素を溜め込むらしい。渡りの途中に鳥などに捕食されないための防御手段である。毒を武器にして大海を南方へ渡るようだ。

 アルカロイドは植物成分ながら嘔吐や腹痛、痙攣や幻覚症状まで起こすほどの有毒物質である。そんな強い毒素が蝶自身の身に害を及ぼさないのが不思議ではあるが、猛毒にも順応する機能を備えているのだろうか。

 普通の蝶は1週間ほどで翅がボロボロになるというのに、アサギマダラの翅はその美しさに似合わず、長距離を飛び続けることが出来る逞しい翅を持っているのである。といっても格別分厚い翅ではないが、移動距離を調べるために翅に油性ペンでマーキングするそうだから簡単には傷まないのだろう。それにしてもこの翅でどのようにして海上を飛び続けるのか、知りたいものだがその経路や移動の範囲などの全貌はまだ明確ではないと聞く。

 1メートルほどの高さの藤袴の花の上を飛び廻っては止まる。その姿を撮るべくカメラを近づけても逃げようとしないし、すぐ目の前を横切ったりもする。襲われることを知らないから人間にも警戒心が薄いようだ。天気の良い日ほど数多く飛ぶらしいが、その日はあいにく曇っていたので乱舞という数には至らなかった。

 羽化後の命は百日ほどというから、南下した先で卵を産んで果て、その卵が幼虫から成虫になり、北上して春には日本へ来る。この南下と北上を繰り返して小さい体で見事に種の存続を図っているのだ。

 「旅をする蝶」とも言われるアサギマダラも、近年のように地球温暖化が進むと、この国の冬は更に暖かくなるに違いないから、いつの日か南下や北上の必要が無くなるかもしれないが、いつまでも「旅をする蝶」であってほしいものだ。

(以上)

◆「旅をする蝶」:吉田成子(よしだ・しげこ)◆

 

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2016年

タイトル 作 者
12月 命綱の結び方 花谷   清
11月 初学のこと 丸山 景子
10月 チョコを食べるのをやめてしまった 久留島 元
9月 灸花 志村 宣子
8月 野風呂岬を訪ねて 鈴鹿 呂仁
7月 弘前城の曳屋工事と甥の結婚式 綿貫 伸子
6月 技能・芸能の霊性と歴史性 熊川 暁子
5月 芭蕉終焉の地 森   一心
4月 近江富士 村井 隆行
3月 イチローと多作多捨 木村オサム
2月 田圃のことなど 久保 純夫
1月 手間暇ということ 宇多喜代子

◆2015年

タイトル 作 者
12月 堺大仙公園の日本庭園平成曲水の宴 谷下 一玄
11月 難病と闘いながら 政野すず子
10月 島の眺め 田宮 尚樹
9月 神戸北野坂界隈とジャズ 西川 吉弘
8月 豊かな時間 西谷 剛周
7月 戦後70年に思うこと
―飾らず、逞しく生きたい―
藤井冨美子
6月 住み心地のよい雑居ビル 辻本 冷湖
5月 生存証明 出口 善子
4月 集中治療室 小泉八重子
3月 それそれ神 辻本 孝子
2月 十年日記 森田 智子
1月 十二月のスーパーマーケットで 宇多喜代子

◆2014年

タイトル 作 者
12月 二つほどのこと 豊田 都峰
11月 365日×3句 岡田 耕治
10月 平和と民主主義を守るために 古梅 敏彦
9月 一枚の写真 前田   勉
8月 あんと王様 鈴鹿 呂仁
7月 スマホ時代に思う 的場 秀恭
6月 プラス・マイナスとは 日原 輝子
5月 ねこのこころ 石井  冴
4月 微風のオデオン広場 花谷  清
3月 三田俳句協会の成り立ち 若森 京子
2月 ある判決への怒り 吉田 成子
1月 日本から初夢を 尾崎 青磁

2013年

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