関西現代俳句協会

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12月6日
青年部のページに第八回 関西ゼロ句会(2020年1月19日)のお知らせを掲載しました。
12月5日
会員の著作に、千坂希妙さんの『天真』を掲載しました。
12月1日
今月のエッセイに、榎本祐子さんの「言葉に出会う」を掲載しました。

2019年12月のエッセイ

言葉に出会う

榎本祐子

 神戸に住んで二十六年になる。九州生まれの九州育ちだが今ではすっかり関西になじんだ

 神戸は海と山が身近で、方向を示すにも海側、山側との言い方が定着している。古くからの港町らしくフレンドリーで親切な人が多く、程よく落ち着いている。

 平清盛の夢のあとの福原、神戸港。六甲山系西の端には、義経の一ノ谷の逆落しで有名な鉄拐山があり、眼下には、平家の若武者敦盛と熊谷次郎直実との切ない戦いの場、須磨の海が光っている。風光明媚を愛でるのみではなく歴史や地霊を感じることで時空の厚みが増す。時間の経過の中で言葉に置き換えられ、認識された世界からは良くも悪しくも逃れようがなく、言語化された時空の中にいると感じる。

 最近、「六甲山自然案内人の会」の定例観察会に時折出掛けている。六甲山周辺の植物の観察、調査が主な目的だ。足元の草や花、木やその花を、案内の方々の驚くほどの詳しい知識で説明を受け、毎回ワクワクしながら歩き廻る。俳句の中でしか知らなかった植物と実体がひとつになる時は、これがそうか!と嬉しくなり次々と名前を書き留めてゆく。チゴユリ、アリマスズクサ、キランソウ、ジャケツイバラ、ムラサキケマン、ヒナギキョウ、ヌスビトハギ等々。季語を収集するように。

 自然の光の中、白くあった物がチゴユリと言う名前を得たときからそれはチゴユリになる。その物を他と区別するための名前、言葉は物を固定する。それは便利で、共同体の中で認識される道具としてなくてはならないが、反面、自由を奪ってしまう。

  歳時記の中の言葉や物事も長い間の人々の想いを背負い込み、美意識を凝縮させ、固定化されたコードとなっている。それは強固なもので、ひとつの単語で瞬時に世界を伝達する。言葉数の少ない俳句にとっては、ああだ、こうだと言わずに済む便利なツールだ。そんな言葉で俳句を書くことは出来合いの惣菜で食事を済ますようなもので、季語をメインに付け合わせのサラダを添えれば手っ取り早く一品が出来上がる。又は、メインの料理に季語を付け合わせにと、忙しい時にはとても重宝する

 しかし、個の表白である俳句をそのような借り物の言葉で済まして良いはずはない。固定化されたものたちを一旦自然の中に戻し、名付けられる前の何の計らいもない初な状態に解放し、そこで出会い、その交歓のなかで表現したい。だか、言葉で表現する限り純粋な交歓は、言語化した途端、一瞬にして固定化されてしまう。そんな矛盾をはらんだ中で只、書くという行為だけが真実なのかもしれないと思える。

 太古、人間が何かに触れたときに示したであろう感情の表現。体の痙攣、打ち付けた音、叫び、やがて個の衝動は伝達の欲求となり、洗練された踊り、音楽や歌などとなるのは社会的な存在である人間には当然こと。しかし、原初の衝動だけは身の内に持ち続けたいと願う。

(以上)

◆「言葉に出会う」:榎本祐子(えのもと・ゆうこ)◆

■今月のエッセイ・バックナンバー

◆2019年

タイトル 作 者
11月 いまを生きる 山﨑 篤
10月 雅号の薦め 吉田星子
9月 「変容」について 金山桜子
8月 鯰と鼬 髙木泰夫
7月 レオン 横田明美
6月 茨木市、一つの俳句史 藤井なお子
5月 俳句に気を許す 塩見恵介
4月 あるコンサートで思ったこと 吉田成子
3月 初学のころ 久保純夫
2月 便船塚 おおさわ
ほてる
1月 観光公害 宇多喜代子

◆2018年

タイトル 作 者
12月 新とか旧とか 小林かんな
11月 三種の神器 出口 善子
10月 「卒業」の話 野住 朋可
9月 ヒロシマの首飾り 花谷  清
8月 朱夏のネアンデルタール人 柳川  晋
7月 一人がため 曾根  毅
6月 兜太氏と秩父の思い出 桂  凜火
5月 選のチューニング 小池 康生
4月 高野素十のコントラスト視点 橋本小たか
3月 式年開帳 蔵田ひろし
2月 わたしの俳句観 平田 繭子
1月 炉話のこと 宇多喜代子

◆2017年

タイトル 作 者
12月 私が『鳥取の俳人 尾﨑坡酔』を出したわけ 小山 貴子
11月 俳句と私 桑田 和子
10月 句集のすすめ 外山 安龍
9月 松茸 西原 和孝
8月 大いなる未完の人 藤川 游子
7月 近頃、俳句に思うこと 米岡 隆文
6月 悪筆三銃士 藤本  晉
5月 「丹波百谷」俳句の今昔 大谷 茂樹
4月 おいしいアニミズム 三好つや子
3月 小海線のおにぎり 大城戸ハルミ
2月 はじめて通る道 谷川すみれ
1月 旅をする蝶 吉田 成子

◆2016年

タイトル 作 者
12月 命綱の結び方 花谷  清
11月 初学のこと 丸山 景子
10月 チョコを食べるのをやめてしまった 久留島 元
9月 灸花 志村 宣子
8月 野風呂岬を訪ねて 鈴鹿 呂仁
7月 弘前城の曳屋工事と甥の結婚式 綿貫 伸子
6月 技能・芸能の霊性と歴史性 熊川 暁子
5月 芭蕉終焉の地 森  一心
4月 近江富士 村井 隆行
3月 イチローと多作多捨 木村オサム
2月 田圃のことなど 久保 純夫
1月 手間暇ということ 宇多喜代子

◆2015年

タイトル 作 者
12月 堺大仙公園の日本庭園平成曲水の宴 谷下 一玄
11月 難病と闘いながら 政野すず子
10月 島の眺め 田宮 尚樹
9月 神戸北野坂界隈とジャズ 西川 吉弘
8月 豊かな時間 西谷 剛周
7月 戦後70年に思うこと
―飾らず、逞しく生きたい―
藤井冨美子
6月 住み心地のよい雑居ビル 辻本 冷湖
5月 生存証明 出口 善子
4月 集中治療室 小泉八重子
3月 それそれ神 辻本 孝子
2月 十年日記 森田 智子
1月 十二月のスーパーマーケットで 宇多喜代子

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年